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2019年2月20日report
文化の違いを理解したうえで推進すべき、現地社員の自立性を促す「仕組みづくり」とは
~5000社を超えたタイ進出日系企業の多くが四苦八苦する「現地化」という命題~
文:田村 篤(AGGS CO., LTD. 代表取締役)
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日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所によれば、2017年調査の結果、タイ進出の日系企業は5444社に達した。1960年代の日系企業タイ進出ラッシュから50年以上が経過した現在、タイの経済成長は鈍化し、人件費も高騰している。多く日系企業において、経営の現地化や戦略の転換、特に人材のマネジメントは最優先課題だ。

こうした背景をうけて、2019年2月、サイコムブレインズUBCL社主催の特別講演会「タイ現地法人が今取り組むべき次世代に向けた人と組織のマネジメント」がタイ国日本人会本館にて開催された。現場目線の率直な意見が交わされた当講演によって、課題解決に直結するヒントを得た参加者も多かったようだ。

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タイ進出日系企業が共通して悩む、「権限委譲」という課題

参加した日系企業の参加者の半数以上がタイ赴任1〜3年目。いずれも現場でのタイ人マネジメントや、理想とする組織づくりと現実とのギャップに苦しんでいる様子がうかがえる。

講演会のスピーカーは2名。異文化コミュニケーションや人材教育を専門とする拓殖大学准教鄭偉(ZHENG Wei)氏と、バンコク在住のビジネスコンサルタント伊東豊泰氏。ファシリテーターはサイコム・ブレインズUBCL代表の地紙厚氏がつとめた。

講演会中盤、参加者のひとりから核心的な質問が飛んだ。

「権限委譲が進み過ぎても、会社経営はうまくいかないのではないか?」

伊東氏「どこまでタイ人ローカルスタッフに任せるか。やはり課題は『お金』が一番多いはずですね。出納、会計処理を任せられるのか、任せるべきなのか。わたしの経験上では、タイの従業員に予算とゴールを用意することで、自立的なチーム運営の経験を積ませることは可能です。まずは決定権を持つに足る人材のアサイン・育成がひとつのステップ。もし任せると決めたのであれば、リスクを最小限に抑えるため徹底的に管理するべきです。このリスク管理は、外資系企業に限ったことではありません。タイ企業の経営者を見ても、部下を信用するか否か以前に、徹底的なリスク管理はあたりまえなんです」

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日本の「報連相」も、決して万能ではない

講演会のサブテーマは「現地社員を巻き込んだ経営、離職防止、リーダーの発掘、世代間ギャップへの対応」。どれも、タイ現地法人の経営の舵をとる企業にとって、避けられない課題だ。

鄭氏「海外で働く日本人が増えたことで、現地企業から『日本人ビジネスパーソンとは、どのような人たちなのか?』と質問されることも増えました。部下としては、上司がどのような人物なのかは一番知りたいはずです。各国の文化を定量分析で評価するフレームワークがあります。その数値をもとに考えると、たとえば日本人が大好きなPDCAのうち、タイ人や中国人がなぜP(Plan)やC(Check)をしないのか、その原因は文化的に明確なのです。」

鄭氏の意図するところは、上下関係を分断する、日本人とローカルスタッフの文化的なすれ違いだ。タイ人や中国人と働いたことがあるなら、すくなからず経験をしているだろう。PDCAを順番に回すことが最善だと考える日本人と違い、彼らはいきなりD(Do)をする。日本人は「なぜ彼らは事前にP(Plan)をしないのか」とやきもきする。一方、タイ人や中国人は「なぜ、事前にそんな面倒なことをしなければならないのか…」と呆れ顔。

こういった差異は、いまや世界語にもなりつつある日本的ソリューション「報連相」でも起こり得る。

鄭氏「たとえ、日本に留学経験があるタイ人や中国人で『報連相』を知っているひとでも、『そんな面倒なことをする必要はない』と無意識に考える人は多いのです。これは、どちらが良い・悪いの話ではありません。そういった文化的価値のズレを受け入れたうえで、報連相の意味やメリットを理解してもらい、実行したくなる仕組みづくりが必要です」

鄭講師は、この文化的価値観のズレに関する理解と対応の仕方について、各国の文化的価値観の違いを数値化して理論として確立した世界的権威であるホフステード博士の6次元モデルや、M/Time P/Timeという時間に対する概念(価値観)の違いを解説するフレームワークを使って解説した。

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社内の仕組みを作り変えることで、現地社員もおのずと動き出す

ある参加者は、自社の上司と部下の関係についてこうコメントした。

「弊社の中で見ている限りですが、タイ人の部門長と末端の従業員が、直接やりとりをしながら業務を進めていく様子がよく見られます。課やプロジェクトから、部長、役員へと報告・決裁が段階式に上下する日本企業とは、だいぶ異なった仕事のやり方だなと」

日本人の経営者としては、従業員ひとりひとりに、経営者感覚を持って判断をし、業務を進めてほしいと考える。だが伊東氏によれば、この願望は、本来のタイ人がもつ文化的な価値観とは、相容れない要素が大きいという。

伊東氏「タイ人にとっての上司は、『決断してくれるお父さん』のような存在と言っていい。文化的な面から見れば、自分では決断せず、上司の判断を仰ぐのが正しいタイ人の仕事のすすめ方です。自分勝手な判断をして責任を取るのは御免だ、というのが本来の価値観なんです。そういった背景を持っていますから、彼らにとって明確なメリットが提示されていない限り、主体的な行動に踏み出すことはなかなか難しい」

鄭氏によれば、こういった自立性の問題は、日本やタイだけの話ではなく、グローバルビジネスにおいて普遍的な経営課題であり、日本に進出した外資企業も、同じ壁にぶつかっているという。自立性のある幹部や社員をどう育てていくかという問題は、異なる文化を持った人々が働く職場では必ず発生する。ある統計では、日本の外資企業のうち40%以上がこの課題をクリアできずにいるそうだ。しかし、文化や価値観の違いを乗り越え、グローバルビジネスの荒波を乗り越えた成功事例が、まったく無いわけではない。

鄭氏「対策の実例をひとつあげると、ある企業で行なっている施策は、評価制度の改変です。年功序列で評価が上がっていく仕組みを、業務の結果で評価する仕組みに変えることで、自立性を持った社員育成を目指しています。とくにタイや中国の人たちの感覚からすると、新しいことに楽しみを覚える傾向がありますから、そういった文化的志向をうまく利用した評価制度の整備は、有用性が高いかもしれませんね」

このように、伊東氏や鄭氏の経験から学べることは「文化・価値観の違いを乗り越える方法はかならず存在する」ということだ。海外で日々邁進する日系企業は、ぜひそういったノウハウを積極的に取り入れて、グローバルビジネスでの成功を掴んでほしい。

取材・構成: 田村 篤(たむら あつし)

多言語マーケティング支援を展開するAGGS CO., LTD. (タイ現地法人)代表取締役。製造業からサービス業、教育業など、幅広い業界で進出支援、マーケティング支援を行う。また、一般社団法人 日本活育推進フォーラムの代表として、海外子女の研修旅行といった人材教育事業も手がけている。

講演会後に行われた懇親会。参加者同士、悩みや苦労した体験を共有し、親睦を図った。
講演会当日、鄭講師の大学のゼミで異文化について学んでいる大学生も日本からかけつけ、講演や参加者と講師の質疑応答に熱心に耳を傾けていた。

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講師紹介

WeiZheng

鄭 偉Wei Zheng

拓殖大学商学部 准教授
上海外国語大学大学院 異文化研究センター 特任教授

上海出身。国際基督教大学行政学博士課程修了。異文化関係とコミュニケーション学を専攻。アジアのコミュニケーション研究に関しては、地域の歴史的、思想的背景を深く掘り下げ、独自の視点で今起きている問題に鋭い分析を行う。日系企業内部のコミュニケーション問題には、自ら行ったフィールドワークに加え、多数のケースを分析して説得力の強い解決策を提示する。確かな理論に裏打ちされた現場重視のアプローチは、顧客から常に高い支持を集めている。

ToyoyasuItoh

伊東 豊泰Toyoyasu Itoh

バンコク在住のビジネスコンサルタント(Founder & CEO, Brains Pro Co., Ltd)
Co-owner & Managing Director, COMTEX BANGKOK CO.,LTD.
サイコム・ブレインズUBCL研修講師

慶応大学法学部卒業。新日本製鉄に約22年間在籍し、経理部門や営業部門でマネジャー、部長代理として活躍。2007年からは新日鉄とタイ大手企業であるサイアム・セメントグループとの合弁会社であるThe Siam United Steelに出向し、在タイ自動車メーカー各社ほか在タイ日系企業営業責任者として部門全体をリードする役割を担った。2012年よりタイにて独立起業し、主に在タイ日系企業に対する経営コンサルティングやその一環として組織人事マネジメントに関するアドバイザーを務めることも多い。

AtsushiJigami

地紙 厚Atsushi Jigami

サイコム・ブレインズ UBCL 代表取締役社長

関西大学経済学部卒業。米国3M社の日本法人である住友スリーエム(現スリーエムジャパン)にて工業用素材やパーソナルケア製品のセールス、新規市場開拓およびマーケティング業務に従事。その後、コーポレートスタッフ部門に異動し、グローバルなマーケティング能力強化プログラムの日本への導入とカリキュラムの最適化を担当した。当社に入社後は、マネジメント人材育成研修や公開型の技術経営人材育成プログラムであるCICOM-ISL、ビジネス英語研修の企画と営業に携わり、現在は国内における人材のグローバル化施策の支援と、タイを中心とした日系企業の海外拠点における人材育成をサポートすることを中心に活動している。

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