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アキバ在住アナリストのブログvol.43             エクセレント企業の盛衰〜決算説明会にみるイノベーション(09年 6/23更新)  

アキバ在住アナリストの石原昇です。

秋葉原の自宅兼オフィスからお茶の水方面を望むと日立製作所の旧本社ビルが目に入ります。新春から解体工事が始まり、日に日に背を低くしている向こう側に、青いドームのニコライ堂が見え始めました。来年に創業100周年を迎えるかつてのエクセレントカンパニーの沈む姿が重なります。

かつてGDPの縮図と言われた日立の旧本社ビル
かつてGDPの縮図と言われた日立の旧本社ビル

日立はITバブルが崩壊した2002年3月期決算で4,838億円の巨額赤字に転落し、リストラの一環として翌年に本社ビルを400億円で売却しました。現在、本社機能は丸の内や秋葉原に移転しているとはいえ、1983年の竣工以来、秋葉原の電気街を見下ろしていた威容が消えていくのは感慨深いものがあります。

思い起こされるのは、アナリストとして足繁く訪れていた旧本社ビルで最初に直面した巨額の赤字発表です。1998年9月3日、突然の下方修正の説明会が召集され、1999年3月期の最終利益が、それまでの400億円の黒字予想から2500億円の赤字予想へ一転するという内容に愕然としました(その後さらに悪化し実績は3387億円の赤字になりました)。長引くバブル崩壊にアジア通貨危機が加わり、金融不安から大手銀行や証券会社が次々に消えていった環境下にあり、デジタル化の波が電機産業のビジネスモデルを変え、エクセレントカンパニーも利益が出ない構造になる予兆でした。

その後にITバブルが発生して一時的に利益が出たものの、事業構造転換の掛け声はトーンダウンし、ITバブルの崩壊でさらに傷を深くしました。そして、100年に1度の不況といわれる前期の2009年3月期は、わが国製造業で最大となる7,873億円の最終赤字を記録しました。売上高は10兆円を維持したとはいえ、需要減や価格下落から全部門で前期を下回る11%の大幅減収となり、営業利益はかろうじて黒字となったものの、1,000億円を超えるルネサステクノロジの持分法投資損失や事業構造改革費用の計上、保有株の含み損や将来の税金の戻りを見込んで積上げてきた繰延税金資産の取り崩しが大きく赤字に響きました。さらに驚くべきは自己資本。1年間でなんと半分以上の1兆1,271億円が吹き飛びました。不動産投機やデリバティブ取引の失敗などではなく、モノづくりに励んだ結果の毀損としては余りにも巨額です。

アナリストと機関投資家が注目する決算説明会
アナリストと機関投資家が注目する決算説明会


日立は戦前に重電機器を基盤に業容を拡大し、戦後は電力インフラや産業システムの構築を担い、60年代からは家電ブームを支え、70年代の情報化時代の幕開けとともにコンピュータ開発をリードしました。そして80年代からは産業の米である半導体、90年代からはそれらの技術を結集したデジタル機器をキャッシュカウとする戦略でしたが、デジタル化の波は投資回収サイクルを崩し、ビジネスモデルを変えてしまったのです。

1,000社のグループ企業と40万人近い従業員を擁する日本唯一のコングロマリットは、「選択と集中」による横並び体質からの脱却を命題としてきました。2006年11月に策定した「協創と収益の経営」を推進するための経営方針では、収益性を重視したイノベーションの創出を重点に掲げ、シェア1、2位の革新的な製品の売上高比率を、2005年度の30%から2009年度には40%に拡大することをめざしていたところに大不況が直撃しました。

今回、日立は異例のトップ人事を断行し、グループ企業に転出していたベテラン役員を呼び戻し、危急の事態の立て直しを最優先しています。4月に発足した「情報・電力・電機融合事業推進本部」を軸に、再生可能エネルギーやグリーンモビリティ、都市省エネソリューションなど日立得意の社会イノベーション事業で復活をめざしています。

空前の不況下、ハイテク産業で一人勝ちといえるのが任天堂です。2009年3月期は、売上高10%増の1兆8386億円、営業利益14%増の5552億円と3期連続で過去最高を更新しました。ソニーのゲーム機部門が2007年3月期に2323億円の赤字、2008年3月期に1245億円の赤字、2009年3月期も584億円の赤字と3期連続の赤字に陥っているのとは対照的です。秋葉原の店頭でも大人気の革新的なゲームが世界中でヒットし、国内上場会社で4位の純利益を叩き出しています。

記憶に残る決算説明会は2001年3月期。子供人口が減少し次世代ゲーム機開発が激化するなかで、当時の山内溥社長は「ゲームはグラフィックスのハード性能ではなく、面白いか面白くないかが重要なんです。子供だけでなく、大人やファミリーでも楽しめるゲーム機の開発が必要です」と熱弁を振るっていました。その後に岩田聡社長を後任に指名し、「ニンテンドーDS」と「Wii(ウィー)」という全く新しいイノベーション商品を世に送り出したのは見事です。

83年のファミコンから始まったイノベーション
83年のファミコンから始まったイノベーション


現在、携帯ゲーム機のニンテンドーDSは「所有者の生活を豊かにするマシン」でプライベートなもの、据え置き型ゲーム機のWiiは「取り巻く人々を笑顔にするマシン」でコミュニケーションツール、と位置づけています。この6月も新製品の投入が続いています。

一世を風靡した「脳を鍛える大人のDSトレーニング」などのソフトのみならず、ソフトを買わなくても、DS本体だけを持っていればサービスが受けられるという進化型です。6月19日から始まった「マックでDS」は、マクドナルドへニンテンドーDSを持って行くと、キャラクター配信やスタンプラリー、マクドナルド限定のオリジナルコンテンツの配信など様々なサービスが無料で受けられます。またバランスボードで体を動かす健康管理ソフト「Wii Fit」により新しい領域を広げたWiiも、6月25日にモーションプラスを使ったWii Sports Resortをシリーズに加えます。

マックと任天堂、勝ち組企業がコラボレーション
マックと任天堂、勝ち組企業がコラボレーション


DSとWiiは簡単につながるように開発されているので、コネクティビティ(接続性)という面から、新しい展開が期待できそうです。

岩田社長曰く、「不況時には、ウィッシュ(欲しいもの)リストの1番にあるものと、3番、5番、10番にあるものは影響の受け方が全く違います。幸いにして世界不況の影響をあまり受けずにいるのは、DSやWiiがウィッシュリストの1番となっているからだと思っています。そして他社のゲーム機(PS3やXboxなど)と価格競争するのではなく、新しいユーザーを振り向かせることこそが最大の関心事です。どうやったらウィッシュリストの1番にしてもらえるかを追求し、そのために色々な仕組みを準備して、サービス事業者に提供していこうと常に考えています。」

6月は株主総会のシーズン。今週はピークを迎えます。政府の月例報告で景気底打ち感がでてきたとはいえ、今期も事業環境は依然厳しく、企業のノベーション創造の真価が問われています

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