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アキバ在住アナリストのブログvol.44             100年の歴史の転換点〜走り出す電気自動車(09年 9/1更新)  

アキバ在住アナリストの石原昇です。

いつでもどこへでも移動できる便利な輸送機器。現代社会に不可欠の自動車は、巨大な市場と雇用を創出し、世界の経済や政治を左右する最大の産業となっています。1908年のT型フォードの量産から立ち上がった自動車産業にとって、2009年は歴史的転換点として記憶されることでしょう。4月にクライスラー、6月にGMが破綻し、業界再編が加速するなかで、7月に次世代環境カーの本命である電気自動車が発売されました。

7月竣工のベルサール秋葉原に電気自動車が登場g
7月竣工のベルサール秋葉原に電気自動車が登場

7月23日、三菱自動車は「i-MiEV(アイ・ミーブ)」、富士重工業は「スバル プラグインステラ」のブランドで、世界初となる電気自動車の量産車の販売を開始しました。官公庁などの法人向けの納入からスタートし、来年には個人向けに販売する予定です「i-MiEV」の販売価格は、459万9000円。補助金を最大限受けられる横浜市のケースでは、国から139万円、神奈川県から69万5000円、横浜市から30万円の補助金が受けられ、実質価格は221万4000円です。

8月2日には、日産自動車が横浜新本社の披露式で電気自動車「LEAF」を発表しました。先行2社が軽自動車サイズなのに対し、5人乗りの小型乗用車サイズと一回り大きく、初年度の生産も5万台の意欲的な計画です。ゴーン社長は「2020年には世界の自動車需要の1割が電気自動車になり、NISSANは排ガスを一切出さないゼロエミッションで世界をリードする」と熱弁を振るいました。1回の充電で160kmの走行、最高時速は140km以上の性能を誇ります。販売価格は来年末までに発表する予定で、2012年度までに生産台数を20万台に引き上げて量産効果によりコストダウンを図る戦略です。

日産が構想する「電気自動車の走るまち」
日産が構想する「電気自動車の走るまち」


電気自動車の歴史を返ると、意外に古く、ガソリンエンジン車よりも前の1873年に、英国で実用車が開発されています。黎明期には、蒸気機関や内燃機関と動力源の主役を争い、あのエジソンも電気自動車の開発に携わっていました。その彼の下にいたヘンリー・フォードが独立し、ガソリンエンジン車の量産モデルを確立してドミナントデザインを勝ち取ったという経緯があります。その後、ガソリンエンジン車は、各メーカーが莫大な開発費を投じてきたため、燃費や加速性能、安全性が著しく向上し、100年に渡り主役の座に君臨してきました。

そこに近年、エレクトリック技術の進歩と世界的な環境問題を背景に、次世代環境カーが台頭してきました。先駆けとなったのは、97年に発売されたトヨタのハイブリットカー「PRIUS(プリウス)」です。ハイブリッドカーは、ガソリンエンジンと電気モーターを両方搭載しているのが特徴で、エンジンで発電機を駆動し、発生した電力を大容量電池に蓄え、その電力でモーターを駆動し走行します。エンジンが最もガソリンを消費する発進時や加速時をモーターが補い、制動時には発電機としての役割も兼ね、蓄電池に電力を補充し、ガソリンの消費量を抑えて燃費の向上とCO2の低減を実現しています。

ガソリンエンジン車の販売が世界的に低迷するなかでも、トヨタの新型プリウスやホンダのインサイトといったハイブリッドカーは生産が追いつかない状況です。にもかかわらず、両社とも電気自動車を先行メーカーと間を置かず、2010年代初頭に本格販売を始める予定です。オバマ政権下でカルフォルニア州を始めとして環境規制のさらなる強化が予想され、次世代環境カーの競争が激化するとみられるからです。ホンダは来月開催の東京モーターショーで試作車を発表し2010年代前半に米国での販売を目指し、トヨタも2012年投入の準備を進めています。

電気自動車への参入は、生き残りを賭けた海外メーカーも本腰です。7月10日に優良資産の譲渡を完了して早くも破産法管理から脱した新生GMは「Chevrolet Volt」を来年中に発売する予定です。欧州の雄、独ダイムラーも「Smart for 2EV」を今年11月に限定販売することを発表しました。

こうした既存の大手メーカーに対し、ベンチャー企業の挑戦にも目を見張るものがあります。筆頭格は米国のテスラ・モーターズです。2003年にシリコンバレーで創業し、2億ドル近い資金を調達し、昨年販売された「Roadster」は、98,000ドル(約1,000万円)の高値にもかかわらず、ハリウッドスターやグーグル創業者などのセレブから650台の生産枠を超える受注を獲得しました。

日本でも8月に秋葉原近くの神田錦町に「シムドライブ(SIM-Drive)(http://www.sim-drive.com/」が立ち上がりました。自ら電気自動車の製造や販売を行うのではなく、電気自動車や部品を製造する企業に独自の電気自動車のプラットフォームを提供するオープンソースのスキームです。時速370kmの世界最速の電気自動車「Eliica(エリーカ)」を開発した慶應大学の清水浩教授が社長、会長にはベネッセの福武總一郎会長が就任するほか、元ソニー社長の井出伸之氏らが顧問に名を連ねています。ポスト京都議定書がスタートする2013年に10万台以上の普及を目指しています。

加速はポルシェ911ターボを上回る「Eliica」
加速はポルシェ911ターボを上回る「Eliica」


従来、次世代環境カーは、2020年ぐらいまでハイブリッドカーが牽引し、徐々に電気自動車が普及していくとの見方が有力でしたが、ここに及んで前倒しとなる可能性がでてきました。自動車を伝達手段に例えると、ガソリン車は手紙、ハイブリッドカーはFAXであり、電気自動車はeメールといわれています。それぞれの伝達手段は今も並存していますが、時代の趨勢は電子化であり、自動車も電気自動車に向かうとのアナロジーです。

ただし、電気自動車には、「航続距離の短さ」「充電時間の長さ」「高価な蓄電池」の3つの課題があります。これらの克服に挑戦するインフラ型のベンチャー企業も登場してきました。イスラエル出身でソフトウェア大手SAPの役員であったシャイ・アガシ氏がシリコンバレーで創業したベタープレイスです。そのビジネスモデルは、通信インフラを整備し端末自体はメーカーから調達し、利用者からインフラ使用料といえる基本料と通信料で高収益を上げている携帯通信キャリアに似ています。

具体的には、イスラエルやデンマークなどで、バッテリー交換ステーションや充電スポットなどのインフラを整備し、ユーザーには高価なバッテリーをレンタルすることで負担を軽減し、短時間にバッテリーにフル充電する従量課金で収益を上げるシステムです。ユーザーの電池残量と位置を把握し、最適なステーションへ誘導するITシステムも売り物です。

日本法人のベタープレイス・ジャパンでは、バッテリー交換ステーションと日産の「デュアリス」をベースとした電気自動車を使って、4〜6月に横浜市で実証実験を重ねてきました。90秒でバッテリーを交換できることや、2000回の交換でもトラブルはなく内外から注目を集めました。藤井清孝社長は、ハーバード大学のMBAを取得後、マッキンゼーのコンサルタントを経て、ケイデンス、SAP,ルイ・ヴィトンなどの日本代表を務めた経営のプロ中のプロです。以前から親交があり、ベタープレイスに転じた際に、その壮大な構想を聞いて驚かされました。

来年1月からは、六本木ヒルズを拠点に世界初のタクシー運用の実証事業を実施する計画です。今後10年内に都内のタクシーを全てバッテリー交換式電気自動車にし、さらにレンタカーなどに普及させて認知度を高めたうえで、現在のガソリンスタンドをバッテリー交換ステーションに転用して、自家用車に一気に広げる構想です。

ガソリン給油よりも速い90秒でバッテリーを交換
ガソリン給油よりも速い90秒でバッテリーを交換


100年にわたるガソリンエンジン車が今後、電気自動車へ代わることで大きな変化が生じます。イノベーションの観点から見ると、次のような変化がポイントになります。1つは技術の変化。エンジンはモーターへ、トランスミッションはインバーターへ、ガソリン燃料関連は蓄電池へ代替されます。車体構造が単純になるため総部品点数は3万点から3000点程度に激減し、求められる技術革新も異なってきます。

これに伴い産業構造の変化も起きます。ガソリンエンジン車の特徴であった擦り合わせ型の垂直構造の生産体制は、電気自動車になると、パソコンのようにモジュール型の水平構造に変容します。完成車はかつてのビッグスリーからベンチャーが参入するスモールハンドレッドに広がり、下請け生産や部品・素材産業も激変します。

ライフスタイルの変化も大きなものとなるでしょう。電気自動車の普及は大量の蓄電池がバラ撒かれることを意味しており、家庭用に普及し始めた太陽光発電とつなげて蓄電池として活用することが考えられます。太陽光が利用できない雨の日や夜間に電力を自家利用できることになり、自動車は外を走るだけではなく、ガレージを個室に変え、リビングとの共存も可能にします。家の狭い日本で新しい空間が生まれます。ファッションとしての嗜好もより強まるでしょう。

八王子にあるベンチャー企業、「オートイーヴィジャパン」は、イタリアメーカーと共同開発した電気自動車「Girasole(ジラソーレ)」を、ブティックや生活ショップで販売し始めました。秋葉原の家電量販店に電気自動車やパーツが並ぶ日も近そうです。

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