解説!
無意識の偏見度チェック

解説者:
太田由紀(サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役)

「無意識の偏見度チェック」における各項目は、サイコム・ブレインズが提供している、女性社員やその上司を対象とした研修において、受講者からよくお聞きするトピックをもとに作成されました。私は、昨今の女性活躍推進において、組織や個人が持っている様々な偏見(=思い込み)がその障害となっているのではと考えています。思い込みとは、自分の考えが正しいと信じて疑わず、「必ずそうである」「例外はない」と考えることです。

私たちが何かを考えたり判断したりするときに、思い込みを完全に取り除くことはなかなか難しいでしょう。しかし、「女性とはこういうものだ」「この仕事は男性が担当すべきものだ」などと決めつけるのではなく、「そうではない人もいるのでは?」「そうではないこともあるのでは?」と立ち止まって考えてみることが大切です。そうすることによって、より多くの視点、より幅広い視野を持つことができるようになり、より客観的で公平な判断ができるようになります。また一人ひとりが多様な視点を認め合うことのできる組織は、最終的には女性だけでなく男性にとっても、誰にとっても息苦しくない、風通しの良い組織となります。皆さんの職場でも、各項目についてそれぞれがどのような考えを持っているのか、一度話し合ってみてはいかがでしょうか。この解説がその参考になれば幸いです。

設問と解説

1.小さい子どもを持つ女性には、なるべく出張のない業務を割り当ててあげたい。

矢印そのような配慮を、女性は本当に望んでいますか?

一見、ワーキングマザーに対する気づかい、あるいは優しさとも思える考え方ですが、その女性は本当にそのような配慮を希望しているのでしょうか? 答えは「必ずしもそうではない」です。小さな子どもがいても「自分が担当している業務であれば、自分が出張すべき」「出張の必要があれば、家族の協力を得るなど、自分なりに工夫できる」と考えている女性がいます。

よかれと思って立場の弱い人を庇おうとする人の意識には、「パターナリズム」が強く働いています。パターナリズムとは、「父と子の関係のように、強い立場にある者が弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること」です。「なるべく出張のない業務を」が善意による配慮であっても、それが本人の意思や希望とは違う場合、モチベーションの低下や成長機会の損失につながるおそれがあります。まずは本人の意思を確認することが大切です。

2.昇進を望む女性は、男性とは違い少ないと思う。

矢印「昇進する可能性」や「管理職として働くという選択肢」を今まで考えたことがない女性、あるいは「昇進の意思を自信を持って表明できない」女性がいるかもしれません。

もし皆さんが「自分の会社の場合、昇進を望む女性は少ないのでは?」と感じたとすれば、その背景として二つのケースが考えられます。

一つは、女性活躍推進が現在ほど盛んではなかった時代に入社し、現在管理職の候補者および予備軍となっている女性の多くが、これまで「自分には昇進の可能性がある」あるいは「自分には管理職として働く選択肢がある」といった考えを持っていなかった場合です。この場合、組織としても女性に対してそのような期待をしていなかった、という状況も同時にありました。そのような背景から、今になって「昇進を希望しますか?」と聞かれても、「(これまで考えたことがないから)わからない」「管理職になった自分がイメージできず不安だ」と感じるのは当然のことでしょう。

もう一つは、「昇進を望んでいないわけではないが、それを表明しにくい」という場合です。このケースをさらに細分化すると、「“昇進を望む女性は少ない”という認識が周囲にある中では表明しにくい」という場合と、「自分に自信がないから表明できない」という場合があります。後者のような自信のなさは、「インポスター症候群」と呼ばれ、男性より女性に多いといわれています。管理職の候補者として期待をかけられても、「自分にはそのような能力はない」と自分を過小評価してしまうのです。

「昇進を望む女性が少ない」という表面的な認識で留まるのではなく、「社内全体の意識が変わっていないのでは?」「管理職候補の女性に対する動機づけができていないのでは?」という視点を持つことが大切です。

3.来客受付やお茶出しなどを男性が行うのは、違和感がある。

矢印特定の職務や役割を、男性・女性のどちらが担うのか? 必ずしも性別にこだわる必要はありません。

性別や年齢によって認識が分かれるところではありますが、受付やお茶出しを男性ではなく女性が担う必然性は、本来ありません。

「お客様に対して、男性がお茶出しするのは失礼だろう」とお考えになる方もいるかもしれませんが、お客様には男性もいれば女性もいます。年齢や価値観も人それぞれです。「男性がお茶出しをしてくれると、すごくかっこいいと思う」という女性からのご意見はよくお聞きします。そういう会社は、「“男性はこうあるべき” “女性はこうすべき”といった、固定的な価値観にとらわれない会社である」というポジティブな印象をお客様に与えるのではないでしょうか。反対に、いつ訪問してもお茶出しをするのが女性だと「この会社では、女性が活躍できていないのではないか?」と感じる人もいるかもしれません。

受付についても同じことで、ロビーを警備する男性が受付係を兼ねている場合もあります。また警備員には男性もいれば女性もいます。性別に関係なく活躍できる場があり、お茶出しなどの役割についても性別関係なくみんなで分担して協力し合あえるような職場。それは女性にとっても男性にとっても働きやすい職場といえるのではないでしょうか。

4.子どもを持つ女性は、公私共に時間に追われているのだから、仕事のアウトプットの質が落ちてもやむを得ないだろう。

矢印「仕事の質」は「その仕事にかけた時間」に比例するとは限りません。

女性活躍推進や働き方改革によって、子育てと仕事の両立を支援する諸制度を整備している企業も多い中、育児休暇から復帰したワーキングマザーに責任の重い仕事をさせない、責任の軽い職務に配置転換するといったケースもあるようです。

このような仕事のアサインや人事が行われる背景には、前述の「パターナリズム」の他に、「仕事の質は、その仕事にかけた時間に比例する」という強い思いこみがあるのではないでしょうか。仕事の評価は、時間ではなくあくまで質によってなされるべきです。時短勤務あるいは子どもの突発的な病気などによって早退をする必要がある場合など、仕事の時間が制約されがちなワーキングマザーであっても、評価の原則は同じです。実際に仕事の質が下がっている場合は、上司が業務自体や仕事量を見直すなどするべきでしょう。

5.働く母親は、授業参観や学校行事の度に仕事を休まねばならないので、大変だと思う。

矢印働きながら子どもの学校行事に参加するのは確かに大変です。しかし、それは母親だけの仕事ではなく、社員の置かれた状況はそれぞれ違います。過度な配慮につながらないよう注意が必要です。

働きながら子どもの学校行事や地域活動などに関わっていくことは、簡単ではありませんね。しかし、これは母親だけが担っていることではなく、父親にも求められることです。「父親参観」のように父親の参加を前提とした行事もあります。そのような行事を理由に休暇を取る男性に対して違和感を持つ上司は、今となってはさすがに少ないかもしれませんが、「子育て・地域活動=母親・女性が担うもの」といった意識はなかなか根強いものがあるのではないでしょうか。

たとえば「夫と協力して行事に参加できているから、さほど大変ではない」あるいは「シングルマザー/シングルファザーで、誰かに協力を得ることが難しい」など、各家庭の状況はそれぞれです。問題は、「学校行事に参加するのは母親の仕事」といったように、固定的な見方や思い込みが過ぎると、前述の「パターナリズム」による過度の配慮を生む原因となる可能性があるということです。

6.女性を一人で海外出張させるのは、躊躇してしまう。

矢印「女性であること」だけを理由に過度な心配や配慮をしてしまうと、モチベーションの低下、成長機会の損失につながる可能性があります。他のチームメンバーに負担感が生じていないか、という点にも注意しましょう。

今や多くの日本企業が海外に進出しています。社員が現地法人に数年間赴任する、海外の顧客やパートナーと会うために日本から出張をすることは珍しくありません。それでも女性を一人で海外出張させることに躊躇してしまう理由は何でしょうか?「日本と違って、海外は治安の悪いところもあるから心配だ」と答える方もいるかもしれません。しかし、それは男性にとっても同じことです。

性別に関係なく、渡航する国や地域の治安状況によっては、一人ではなく上司や同僚など複数人で行動する、あるいは現地で案内してくれる方を手配するといった配慮は必要かもしれません。一方で、女性であることだけが理由で「一人で海外は行かせるのは心配」というのは、前述の「パターナリズム」による思い込みが強く影響している可能性があり、女性のモチベーションを下げる、あるいは成長機会を損失する要因にもなり得ます。また本来その女性が担当すべきだった海外出張をチームの他のメンバーが担うことで、周囲の負担感が増す、という状況はあまり好ましいものではありません。

7. 無理して参加させるのは申し訳ないから、小さい子どものいる女性は飲み会に誘わないようにしたい。

矢印母親だけが育児の担い手ではありません。また「子どもがいても、会社の行事にはできるかぎり参加したい」と考える女性もいます。

「子どもがいる女性は、なかなか参加できないだろう」「断りづらいだろうから、最初から誘わないようにしている」という方の意識の中には、前述の「パターナリズム」の他に、「(父親ではなく)母親が子どもの面倒を見るのが、普通の状態」という思いこみが潜んでいる可能性があります。たとえば「会社で飲み会があるときは、夫に早く帰宅してもらう」といったように、「周囲の協力を得ながら、会社の行事にも積極的に参加したい」と考える女性もいます。また職場の行事に参加できないことで疎外感を感じる、あるいは情報が自分に入ってこないことを懸念する方もいます。同じ職場のメンバーとしてあまり気を遣い過ぎることなく、フラットな気持ちで誘ってみてはいかがでしょうか。

8.女性は、「気遣いが得意」「縁の下の力持ちとして周囲をサポートできる」などの強みを、もっと活かせばよいと思う。

矢印女性に対して固定的なイメージを持ち、「当たり前のこと」として気遣いやサポートを期待していませんか?

これらの要素は、本当に「女性ならではの強み」といえるのでしょうか? 周囲が女性に対してそのような役割を期待することで、女性がその期待を感じ取って行動している場合もあります。

リーダーシップ論の領域でこれらの要素を解釈した場合、「気遣いが得意な人」というのは、職場のメンバーが仕事をしやすい状況を作れるという意味で「チームビルディングができる人」と言い換えることができます。また「縁の下の力持ちとして周囲をサポートできる人」というのは、いわゆる「サーバント・リーダーシップを発揮できる人」といえるのではないでしょうか。このように考えると、こうした強みを持った男性もいるわけで、特に「女性ならではの強み」というわけではないということが分かります。

ただ、こうした強みを女性が発揮しても「女性として自然なこと」「当たり前のもの」として評価に結びつかず、反対に男性が発揮すると「リーダーシップがある人」という評価につながっているとしたら、それは公平・公正な評価とはいえません。性別に関係なく、その人の自身の強みとして評価する姿勢を持つことが大切です。

9.男女かかわりなく、意欲&能力のあるものを育成・登用すべきであるから、女性だけに特別な育成施策を行うのは良くないと思う。

矢印企業が持続的に成長していくために、女性の活躍を推進することは喫緊の課題です。

女性活躍推進に対してこのように感じている方は少なくないようです。管理職や将来の経営幹部となる人材の育成や登用では、その成果を最大化するために、候補者の意欲や能力を見極める必要があります。この点において特に男女を分けて考える、あるいはどちらかを優遇する必要は本来ありません。

一方、現在の女性活躍推進の背景には、「人手不足の解消」「ダイバーシティの推進によるイノベーションの創出」といった喫緊の経営課題があります。職場のリーダー、経営を担うリーダーを女性の中から輩出するためにも、明確な目標と達成までの期限を設けて女性の育成や登用に注力する必要があると考えます。

女性活躍推進は、男性にとって不利益になるものではありません。これまでの日本の企業社会は、圧倒的なマジョリティ(多数派)であった男性の価値観や働き方をベースに成り立っていました。その企業社会のあり方に、女性活躍推進によって、大きな変化が起きているのです。男女の性別に関係なく意欲や能力のある人が評価され、活躍できる社会になっていく過程の上に立っているのだと考えるべきではないでしょうか。

10.子どもを持つ女性に残業無し・時短勤務などの配慮をすることは、子どもを持たない女性にとって不公平な話である。

矢印制度を活用するのは従業員の権利です。また制度や配慮によって周囲に不公平感・負担感があるとしても、それは「女性どうしの間だけの問題」とは限りません。

まず時短勤務に関しては、法律によって定められたものの他に、独自の制度を設けている会社もあります。法律や会社の制度に基づいて時短勤務を活用するのは、従業員の権利ですので、それは「不公平な話」であるとはいえません。

一方、たとえば「時短勤務中の社員によって完了できなかった業務が、他の社員に回ってきて、周囲が負担感を感じている」といったことが常態化しているとすれば、現場のマネージャーの責任において業務の指示や役割分担について見直す必要があるでしょう。

また公平・不公平の問題は、「女性どうしの間だけ」とは限りません。子どもを持つ男性が時短勤務を活用する場合もあります。また時短勤務中の女性の業務をバックアップするのは、女性だけではありません。「子育ては女性の役割」「この業務は女性の仕事」といった思い込みによって、適切な判断ができていない場合がありますので、注意が必要です。

11.会議などで意見を強く主張する女性は、自己顕示欲が強そうだ。

矢印男性が同じ意見を同じ強さで主張したら、あなたはどう感じますか?

「女性は慎ましくあるべきだ」という、女性に対する固定的なイメージ・思い込みはありませんか? 仮に男性が同じ意見を同じ強さで主張したら、あなたはどのように感じるでしょうか。人によっては「彼は仕事に信念と情熱を持っている」といったポジティブな評価をするかもしれません。そのような評価の差を感じた女性が、今後会議で発言することに躊躇するようになってしまったら、本来自由で創造的であるべき会議を行うことができません。

12.上のポジションにチャレンジする意思を明確に持たない女性まで育成するのは、コストがもったいないと思う。

矢印「これまで明確な意思を持つ環境になかった」女性の意識の醸成をすることは、女性活躍推進における重要な課題の一つです。

前述の「項目2」や「項目9」で解説したこととも重なりますが、これまでの企業の人材育成、特に管理職以上のポジションの育成のあり方は、男性を中心として成り立っていました。そのような環境の中で、多くの女性にとっては「上のポジションにチャレンジしよう」という発想自体がありませんでした。

話は少し逸れますが、男性中心の人材育成の中で、すべての男性自身がチャレンジする意思を明確に持っていたかというと、必ずしもそうではなかったのではないでしょうか。一定の年齢になったら昇進するもの。そんな意識がかつてはあったと思います。

管理職や経営幹部の育成にとって、対象者自身にチャレンジする意思が備わっていることは重要です。この点について、性別は関係ありません。一方で、昨今の女性活躍推進においては、「女性のチャレンジする意思・意識を醸成すること」が非常に重要な課題となっています。企業はそれを経営課題として認識しているからこそコストをかけている、ということ理解する必要があります。

■解説者プロフィール

太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役
女性管理職・候補者育成、女性社員の上司研修担当講師
太田 由紀 Yuki Ota
一橋大学社会学部卒業。株式会社リクルートにて中小企業の新規顧客開拓営業、および求人広告媒体の編集制作を担当。キャリアや人生を自ら切り開き構築する人々とともに歩み、支援したいという思いから1986年ブレインズ株式会社を設立。2008年にサイコム・インターナショナルとの合併を経て同年より現職。同社の人事を統括するとともに、研修プログラムの開発に力を入れる。また、講師としても約1万人への研修実績を誇る。担当研修はリーダーシップ強化研修、意思決定力強化研修、ビジョン立案強化研修、OJT強化研修、キャリア開発研修、UPAビジネスコミュニケーションスキル研修、UPAネゴシエーションスキル研修、UPAコーチングスキル研修など。近年では管理職になったばかりの女性とその候補に対する「女性管理職育成講座」や、女性管理職を育成する立場にある男性上司に対する意識改革の研修を立ち上げ講師を務める。

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