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対談

2018.02.20

女性活躍のその先を読む。自社にとって真のダイバーシティとは? ― Diversity & Inclusion Evangelist 蓮見勇太氏

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役

企業としてLGBTに取り組む…組織とビジネスへのインパクト

蓮⾒ 勇太 ⽒
  • 太田 由紀
    企業のダイバーシティ推進において、今後ますます注目されるであろうイシューのひとつがLGBT※だと思います。AIGジャパンが企業としてLGBTに取り組むようになった背景として、何かきっかけはあったのでしょうか?

※LGBT
Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)、Gay(ゲイ:男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:性別越境者)の頭文字をとった、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称。

  • 蓮⾒ 勇太
    きっかけは九州の営業本部からの提案で、「代理店さんが九州レインボープライド(LGBTの啓発イベント)に協賛するんだけど、AIGとしてスポンサーになれないか、検討できないか」というものでした。

    提案を受けたのが2015年の7月頃。当時のAIGジャパンはLGBTのLの字も分からないような状態でした。当然社内にも当事者がいるでしょうし、基本的な知識もないままイベントに協賛するのは恥ずかしいですから、11月のイベントの前に「NPO法人虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀さんを講師にお招きして、経営陣と人事部、そして協賛イベントの参加者を対象にセミナーを開きました。
  • 太田 由紀
    参加された方々からは、どのような反応がありましたか?
  • 蓮⾒ 勇太
    経営陣は約80人が参加したのですが、その中に当時の生命保険部門の社長がいたんです。最初は「LGBTとは何ぞや?」「そんなの俺の周りにはおらんぞ」といった感じでした。でもセミナーの中で、たとえば保険金の受取人における配偶者の定義が、LGBT当事者のお客様にとってはバリアになっていること。あるいは当事者が組織の中でこんな生きづらさ・働きづらさを抱えています…といった話を聞いて、「保険会社として、社長として何ができるか考えさせられた。これはなんとかせなあかん!」と言ってくださって。その後も彼が社内で音頭を取ってくれて、保険商品の開発を進めるきっかけになりました。
  • 太田 由紀
    一番最初の取り組みから、早くもポジティブな動きが生まれたんですね。社内の当事者の方からは、何か反応はあったのでしょうか?
  • 蓮⾒ 勇太
    セミナーの対象者以外に、全従業員に対して「こんなセミナーをします。参加したい人は登録してください」とイントラネットに載せたら、何人かの当事者の方が登録してくれました。セミナーの後で「AIGで働いていて、今日ほど良かったと思えた日はありません!」と言ってくれた人もましたね。

    2016年の4月には、社内でLGBT当事者とアライ(支援者・盟友)による従業員ネットワークを立ち上げました。先ほどお話した商品開発との関連でいうと、たとえばお客様からのお問い合わせに対して、「こんなふうに答えましょう」「こういう言葉づかいをしてはいけませんよ」といったことを従業員ネットワークの方からヒアリングして、コールセンターの教育に反映させました。
  • 太田 由紀
    それは素晴らしいですね。LGBTの当事者が持つ多様な性的指向、あるいは多様な性自認というのは目に見えない、見えにくいものであるがゆえに、こうしたセミナーや研修を通して理解を深めることは、非常に大切だと思います。
  • 蓮⾒ 勇太
    確かに社内でセミナーをしたときに、「私の周りにはいません」という反応はすごく多かったですね。LGBTの当事者が自分の周りにどのくらいいるか? よく引用されるデータとしては、電通ダイバーシティ・ラボの「7.6%」です。つまり、1,000人の会社であれば76人、13人に1人はLGBTの当事者なんです。苗字が佐藤・田中・高橋・鈴木の人を全員足しても5.2%。LGBTの問題を自分事として考えてもらうためには、まずは「それぐらい身近にいるんだ」と知ることだと思います。
  • 太田 由紀
    まずは知る、知ってもらうということなんですね。一方で、企業としてLGBTに取り組むときには、やはり「自社の組織やビジネスにとってどんなインパクトがあるか」ということが十分に認識されないと、推進することがなかなか難しいのではないかと思います。
  • 蓮⾒ 勇太
    組織へのインパクトとしては、職場でLGBTが身近にいることを知らずに、ハラスメントにあたるような言動をしていると、訴訟のリスクさえあるということですね。たとえば女性に対して、「彼氏いるの?」「いつ結婚するの?」と聞くのがセクハラになり得る、というのはだいぶ認知されていますが、同じ言葉で傷ついているLGBTの当事者も多くいます。そのように当事者にとって差別的な発言が多い環境では、人材流出のリスクもあります。
  • 太田 由紀
    ビジネスへのインパクトとしては、先ほどお話いただいた保険金の受取人の問題など、「LGBTの当事者がいるという前提に立って自社の商品やサービスを見直すことができる」という点ではないでしょうか。最近では旅行代理店やホテルが、同性どうしで結婚式を挙げることができる式場を提供するといったサービスもありますね。
  • 蓮⾒ 勇太
    他には、航空会社が同性パートナーどうしでマイルをシェアできるようにしたり、携帯電話の家族割を同性パートナーにも適用するとか、そういった企業の取り組みも出てきています。
  • 太田 由紀
    BtoCの場合は、当事者をターゲットとして、あるいは当事者に配慮した形で商品やサービスを開発できるという意味では、比較的ビジネスに結びつきやすいと思います。BtoBの企業の場合は、どのように考えたらよいのでしょうか?
  • 蓮⾒ 勇太
    私がお伝えしていることは、たとえば「人事制度を見直して、特別休暇や慶弔金を同性パートナーを持つ社員にも適用しました」という企業であれば、「御社の素晴らしい取り組みを、社外に向けて発信してみませんか?」ということですね。いわゆるブランディング、あるいはCSRの観点で発信していくことは可能だと思います。

    LGBTはトレンドというか社会的に注目されている分野ですので、企業としての姿勢を示すことができます。よこしまに聞こえるかもしれませんが、ダイバーシティ推進はメリットが見えないと続きません。自社のブランディングとして社外に発信していくというのも、ひとつのプラクティスではないでしょうか。

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