- 太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役
コラム
2014.12.24
顧客企業様とお話をしているときに「管理職に求められる能力は、男性であろうが女性であろうが変わらないはずであるのに、なぜわざわざ『女性管理職』を取り上げて教育する必要があるのか」というご質問を頂戴することが度々あります。
以前このコラムで書いた通り、最初は私自身も同様の考えを持っていました。しかし、実際に女性管理職向けの研修を希望される企業の、ご担当者様や受講者と接する中で、やはり対象を「女性」管理職に限定する育成施策も必要であると考えるようになりました。
その理由は次の通りです。女性管理職およびその候補者が組織のマイノリティである場合、「女性の特性」を認識したうえで育成すれば、恐らく彼女たちは早期に優秀な管理職に成長するでしょうし、「女性管理職のロールモデル」としても機能するでしょう。そして「女性管理職のロールモデル」が生まれれば、組織の中で「点」や「面」にすぎなかった女性管理職が、「層」となって育っていくと考えられます。
もちろん全ての企業において、「女性」管理職向け教育が必要であるとは考えません。
既に女性管理職がマイノリティでなくなっている場合、あるいは若手・中堅社員時代に男女に関わらず充分な育成施策が用意されている場合、このようなくくりは不要でしょう。
では「女性の特性」「男性の特性」とは何か、ということになりますが、男性、女性の特性をつくるものは生物学的性差、社会的・文化的性差の二つである、と一般的に言われます。生物学的性差とは、身体的機能や脳構造、分泌されるホルモンの違いなどで、社会的・文化的性差とは、社会的・文化的につくられた違いです。「違い」は「良い・悪い」でなく「特性」として厳然と存在しています。
「管理職に求められる能力は、男性であろうが女性であろうが変わらない」のは全くその通りです。しかし男性・女性それぞれが違った特性を持っているのであれば、特性に応じ育成の仕方を工夫する方が、より効果的・効率的ではないでしょうか。
管理職を育成する際、マインドセットやスキルトレーニングの研修を行うことが多いのですが、育成の対象が女性の場合、マインドセットでは、まず「自信」をもたせることが重要です。組織の中でマイノリティである女性は、多くの場合自信がありません。集合研修や他流試合などで「仲間(=女性管理職たち)」と悩みや課題を話し合い、共に知識やスキルを学び、成功体験を共有することで、自信を積み重ねることが出来ます。
また女性が、ジェンダー規範から逸脱することを恐れるあまり、目立つことを避けたり、一歩踏み出すべき時に引いてしまうという行動をとる傾向を、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが「内なる障壁」と名付けています。これについても、集合研修や他流試合で仲間と切磋琢磨する中で、積極的に前に出ることや堂々と自分の意見を述べることに慣れる結果、打破できるようになっていきます。
脳機能論を研究する黒川伊保子氏によると「右脳と左脳を連携させる脳梁(感じる領域と考える領域を繋ぎ、脳の持ち主の無意識の行動傾向を牛耳り、心を表出させるために使われる)は、女性の方が男性より約20%太い」とのことです。その結果女性は、多くの場合先天的に「察する能力」や「感じたことを即座に言語化する能力」に優れているが、論理思考すべき時に感情が介入しやすいため、客観的判断や全体間の構築が苦手な傾向にあるそうです。これは受講者の皆さんと接する中で、私が感じる印象とも一致しています。
管理職にとって重要性の高いビジネススキルは、コンセプチュアル(概念化)スキルとヒューマンスキルと言われます。上記の特性を見た場合、女性管理職に対してはコンセプチュアルスキルのトレーニングをより重視することが効果的と考えます。
正直なところ今回の当コラムの内容については、色々なご意見が出るのではないかと考えています。そもそもは、最近お会いしたビジネス界で活躍する女性の多くが「男女の特性は違う」と言いきっていること、そしてその違いを踏まえた上で、ビジネス上では「強み」となる部分を生かし、「弱み」となる部分はトレーニングなどで上手に補強していることに感銘をうけたことから、今回は男女の特性の違いに注目しました。今後女性管理職を早期に「層」で輩出しようという企業様にとっては、「女性の特性」を認識した上での育成施策がより効果的・効率的ではないでしょうか。
太田 由紀Yuki Otaサイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員
一橋大学社会学部卒業。株式会社リクルートにて中小企業の新規顧客開拓営業、および求人広告媒体の編集制作を担当。キャリアや人生を自ら切り開き構築する人々とともに歩み、支援したいという思いから1986年ブレインズ株式会社を設立。2008年にサイコム・インターナショナルとの合併を経て同年より現職。同社の人事を統括するとともに、研修プログラムの開発に力を入れる。また、講師としても約1万人への研修実績を誇る。担当研修はリーダーシップ強化研修、意思決定力強化研修、ビジョン立案強化研修、OJT強化研修、キャリア開発研修、UPAビジネスコミュニケーションスキル研修、UPAネゴシエーションスキル研修、UPAコーチングスキル研修など。近年では、組織のダイバーシティ推進および女性のキャリア開発支援に力を注ぎ、ミドルマネジメントを対象とする「アンコンシャス・バイアス研修」などの企業内研修に多数登壇。
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