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ASTD国際会議2014レポート
第3回 学習と感情の関係性

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レポート

2014.08.19

加藤 円
加藤 円英語教育マネジメントグループ/シニアプランナー

トレンドは「ニューロサイエンス」?

ASTDの国際会議で行われる各セッションは、「Career Development(キャリア開発)」や
「Training Design and Delivery(研修の設計・提供)」など、その内容によっていくつかのコンテンツトラックに分類されています。今年度は新しいトラックとして「Science of Learning(学習の科学)」が設けられ、ニューロサイエンス(Neuroscience・神経科学)や脳と学習の関係性について触れているセッションが多くありました。また他のトラックにおいても、ニューロサイエンスに関する言葉やスライドが使われることが多く、近年の研究から得られた知見によって、学習やパフォーマンスマネジメントのあり方を再構成しようという動きが出てきているようでした。

私はビジネス英語研修の企画・運営に携わっており、「限られた学習時間でいかに効果を最大にするか」は永遠のテーマです。ニューロサイエンスについて理解を深めることで、より効果的な研修や学習方法の提供につながることを期待して、いくつかのセッションに参加しました。

その中でも特に印象的だったのが、ニューロサイエンスを応用しHR、OD、L&D、チェンジマネジメントに関するリサーチを行っているNeuroLeadership Instituteという機関のJosh Davis氏による、“The Neuroscience of Learning”というセッションでした。このセッションでは、「学習の定着化をはかるために神経科学をどのように活用するか」をテーマに、学習効果を最大にするためにはAGES (Attention, Generation, Emotions, Spacing)を考慮すべき、ということが語られていました。

fig1

  • Attention (集中力・注意力)
    人の集中力は最大でも20分、マルチタスクなアクティビティより、ひとつのことに集中した方が、効果が高い。
  • Generation (生成・創出)
    メタ認知や洞察力を通じて、学習者が自ら発生、生成するようなアクティビティを使うことで当事者意識が高まり、モチベーションも上がる。
  • Emotions (感情)
    適度な感情、特にポジティブな感情を受け取ると、長期記憶に残りやすい。長期記憶に残ることで行動にも結びつく。
  • Spacing (間隔)
    長時間連続学習よりも間隔をあけて複数回にわけて学習する方が効果的。睡眠の間に記憶は形成されるため睡眠は不可欠。また記憶は変化することをふまえ、反復学習を行うことが有効。

このセッションで特に興味深かったのが、Emotions(感情)と記憶の関係性です。感情を脳の扁桃体がキャッチし、記憶を司る海馬へ信号を送り、長期の記憶を強化するのだそうです。このとき感情が強過ぎると逆効果になってしまうので、「マイルドな感情」であることが条件です。例えば「タイムプレッシャーを与える」というのもマイルドな感情を揺さぶる方法です。マイルドな感情はポジティブであっても、反対にネガティブなものであっても効果はあるようですが、ネガティブな感情は人によっては「強すぎる感情」になってしまうリスクがあり、そういう人には例えば褒める、報酬を与えるといった方法でポジティブな感情を引き出す方が、より次の行動に結びつきやすいということでした。

大人の感情と英語学習

私は過去に児童の英語教育に携わっていた経験がありますが、大人の英語学習と子どもの英語学習で大きく異なる点は、「目的意識があるか、ないか」ということです。

子どもの場合は、英語を学ぶという決断はだいたい親が行っていて、たとえ英語を学びたいと言っている子どもでも、「何のために」がはっきりしていないことがほとんどです。そのため、ただでさえ注意力散漫になりがちな子どもを集中させるために、講師やクラスの企画者は手をかえ品をかえ、楽しんで学習をできる環境をつくったり、褒めたり、ご褒美をあげたりと工夫をこらします。

一方、大人の場合は、モチベーションの高さや緊急性はそれぞれですが、遅かれ早かれ「仕事で英語を使う」という目的意識があります。目的意識があり、かつ自制心が働きますから、子どもほど工夫をこらさなくても、クラスに集中して学習をすることできます。しかし、ニューロサイセンスの視点から考えると、大人の学習者にこそ、感情を刺激するようなアクティビティを多く盛り込むのが効果的かもしれません。大人の英語学習者の場合、これまでの経験により海馬に「英語が苦手」「前に努力したけど無理だった」という情報が残っていて、「やらなきゃいけないけど、やる気がでない」ということも多くあるかと思います。英語学習とポジティブな感情をいかに結び付るかが、研修の企画者や講師にとっての重要な課題です。

他のセッションでは、脳のしくみを考慮したクラス運営やアクティビティの紹介がされていました。セッションを担当した講師が用意したエクササイズは「ペアになって、相手が何か発言したら、とにかく褒めなさい。褒める言葉が見つからなければ、(スライドに褒め言葉がいくつか並べてあるので)これを使って褒めなさい」というものでした。最初は違和感や恥ずかしさを覚えましたが、スライドにあった言葉をそのまま使っても、褒め合っているうちに、嬉しい気持ちになっていきました。実際、このエクササイズは今でも私の「記憶」に残っています。

今回参加した各セッションに共通するメッセージは「人材開発のためのコンテンツは既に十分豊富にそろっている。今後はそれらのコンテンツに対し、ニューロサイエンスの視点からいかに付加価値をつけて提供できるか、そして実際に学習者が能動的に学びを継続し、行動に結びつけるための手助けをできるかが重要」ということでした。サイコム・ブレインズとしてもニューロサイエンスの知見を積極的に活用していくべきと感じました。

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会場内に設けられたGlobal Village。ネットワーキングの他、セッションの合間に一息つく場所としても使われます。

  • 加藤 円

    加藤 円英語教育マネジメントグループ シニアプランナー

    大学卒業後、児童英語講師、高校非常勤英語講師、留学コンサルタントを経て当社へ入社。オーストラリア、イギリス、アメリカの滞在経験から、英語をコミュニケーションツールとして、様々な国の学生とディスカッションすることのおもしろさと難しさを実感する。自分の経験を生かして、英語学習についての悩みを共有することで、グローバルな環境で活躍する受講者の応援をしたいと考えている。

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