レポート

2014.09.02

第4回コンピテンシーはもう古い? 人的資源開発に関する世界最大の会議 & EXPOASTD国際会議2014レポート

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勝 幹子 Mikiko Katsu
勝 幹子 サイコム・ブレインズ株式会社
執行役員

リーダー育成のキーワード:Agility

とある研修会社の展示ブース。写真は来場者が「良いリーダー」「悪いリーダー」の定義を書き込む大きなパネル。とある研修会社の展示ブース。写真は来場者が「良いリーダー」「悪いリーダー」の定義を書き込む大きなパネル。

今年のASTD国際会議では、「Agility(柔軟な対応力)」や「Adaptability(適応能力)」といった言葉を非常によく耳にしました。

元駐アフガニスタン米軍司令官のGeneral Stan McChrystalによる基調講演をはじめ、様々なセッションにおいてこれらの要素がリーダーに必要であると強調しています。また全体を通して「世界中で予測できない変化が次々と起こるようになった昨今、今までのリーダーに必要な要件をあらかじめ定めて評価するコンピテンシーモデルには限界がある」という論調が多く見られました。

eBayのリーダー育成

さて、今回はAgilityを重視したリーダー育成の事例として、アメリカのインターネットオークション・通信販売企業、eBayが行っているプログラムをご紹介したいと思います。eBayではリーダー育成を三つの階層に分けて行っているそうですが、私が参加したセッションではミドルマネジャー向けのプログラムが特に詳しく紹介されていました。プログラムのポイントとして強調していたのは以下の3つの点です。

  • 選抜は実績ではなく、ポテンシャルを重視する
    プログラムに参加する対象者の選抜にあたって、現在までの実際の業務上のパフォーマンスは考慮されません。それでは何で選抜するかというと、Agilityのポテンシャルを測定するアセスメントのみです。変化の速い時代、今業績をあげているからといって今後もそれを続けられるかどうかはわからないので、今のパフォーマンスとリーダーとしてのポテンシャルを結びつけることはしないのです。今頑張っている人、うまくやっている人を将来のリーダーに抜擢したいのが人情ですが、そこはまったく考慮しないと断言する潔さに感銘を受けました。
  • 短期間で成果を出すことを要求する
    プログラムは最長で6か月間ですが、そのうち集合研修は1週間の泊まり込みの研修のみです。その他の時間は電話会議で進捗確認をしながら、コーチングを受けたり、eラーニングを受講したり、360度評価に参加したり、業務改善プランを作成して実施したり、といった個人ベースの作業に割かれ、最終的に実際の業務でパフォーマンスを上げることが要求されます。事例の発表者は「こういった類のプログラムに1年は長過ぎる」ときっぱりコメントし、プログラム内容の充実は求めながらも、短期間であることはどうしても譲れない条件であると強調していました。
  • アクティビティに個別性を持たせる
    上記の通り、集合研修の前後には個別で行うアクティビティがたくさん用意されています。またミドルマネジャーよりさらに上位層向けの育成プログラムでは、トップ層の幹部に一定期間海外出張含め常時同行し、彼らのパフォーマンスを近くで見て学ぶ「Shadowing」も盛り込まれているそうです。「全員が同じ内容の研修を一緒に受けることは、チームビルディングには役立つが、個別の状況を無視することになるので、結果、学びを実務ですぐに使えない例が多発する」というのがこの裏にある考えです。なるべく同じレベル、同じ内容のプログラムにすることが目的となりがちな日本の状況とは大きく異なることが印象的でした。

「グローバル人材」への関心は比較的低い

世界48か国の企業のリーダーの現状調査を報告するセッション。日本だったらものすごく関心を持たれそうなテーマであるが、参加者の少なさに驚いた。世界48か国の企業のリーダーの現状調査を報告するセッション。日本だったらものすごく関心を持たれそうなテーマであるが、参加者の少なさに驚いた。

ところで、ASTD国際会議で行われる250以上のセッションを分類する9分野の内、セッション数が一番多いのは「Training Design&Delivery(研修の設計・提供)」で約50。
次いで「Leadership Development(リーダーシップ開発)」で約30でした。

それでは、日本で皆さんが非常によく耳にする「グローバル人材」に関するセッションはどうでしょうか。今年の「Global Human Resource Development(グローバル人材開発)」に関するセッションは20弱。その内容も、韓国、中国、インドなどアメリカ以外の企業の事例発表で、参加者もアメリカ人ではなくそれ以外の国の方が多い印象を受けました。すでにビジネスリーダーといえばグローバルに活躍できることが織り込み済みであるアメリカ企業にとっては、わざわざそれだけを取り上げるというテーマではないのかもしれません。このことからも、「グローバルリーダー育成が喫緊の課題」となっている日本の特異性が改めて理解できました。

現在私は日本人社員のグローバル化や、多国籍社員への研修の企画の提案をしています。「グローバル人材の育成」という言葉は非常にあいまいなもので、この言葉だけに頼ってしまうと、育成における課題の本質を見過ごしてしまいます。今回のキーワードであるAgilityも含め、世界を舞台に活躍できるリーダーに求められる特性を、世界情勢、業界動向、そして個々の企業の戦略から、それぞれの案件ごとに明確に定義付けてゆくことが、顧客の皆様のご要望にお応えする第一歩であると、今回あらためて実感しました。

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