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ATD国際会議Self-awarenessとMindset:リーダーシップ開発における内面的アプローチの意味を考える
― ATD International Conference & Exposition 2019レポート④

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レポート

2019.07.09

酒入 織花 Orika Sakairi
酒入 織花サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット / コンサルタント

サイコム・ブレインズは、今年もATD-ICEで八木洋介氏をリーダーとする勉強会を開催し、弊社からも私を含めて2名が参加しました。初めて参加したATD-ICE は、L&Dに関する幅広いコンテンツがカバーされており、まずセッションの選択に非常に悩みました。どのセッションもプレゼンのデリバリーにとても迫力があり、参加者からもどんどん手があがり、セッションが終わるとスピーカーに質問をしようと行列ができます。会場にあふれるエネルギーと、言葉のハードルがある中、1日4セッション×4日間という大量のインプットに、頭の中が飽和状態となっていきました。毎晩2-3時間かけて、各自が参加したセッションの要点やそれに対する意見を発表し、相互に学び合うことによって、ようやくおぼろげながら全体像がつかめたように感じています。

Walter E. Washington Convention Center
カンファレンス会場:Walter E. Washington Convention Center

私自身は、ラーニングテクノロジー、ニューロサイエンス、そしてリーダーシップ開発を中心に、全部で14のセッションに参加しました。ラーニングテクノロジーとニューロサイエンスに関しては、前出のレポートをご覧いただくとして、私からはLeadership Development関連のセッションから学んだことをご紹介したいと思います。

他者への働きかけの前に、なぜSelf-awareness(自己認識)なのか?

今年のATD-ICEでは300を超えるセッションが行われましたが、中でもLeadership 開発関連は15あるコンテンツトラックの中で最も多い48セッションでした。リーダーシップ開発は対象者や目的によって意味することが異なり、捉えどころのないテーマであると常々感じており、ATD-ICEではリーダーシップがどのような文脈で語られるのだろうと、大きく期待をしていました。

限られたセッションからの結論ではありますが、ATD-ICEでは、「リーダーとしてとるべき行動をどのように身につけていくか」というような外的なアプローチよりも、「Self-awareness を高める」「マインドセットを変える」といった、行動の源となる内面へのアプローチを紹介しているセッションが多いことは予想外でした。

Awareness、もしくはSelf-awareness という言葉については、最初はあまり聞きなれない言葉だなと感じました。Self-awarenessは、「自分の感情の状態を正しく把握でき、同時にそれが他人にどのような影響を与えているかを十分認識できること」を表します。「自分のことを正しく認識していますか?」という質問に対して、Become a more emotionally intelligent leader: awaken to your mindset(Ryan Gottfredson)では、「95%の人がSelf-awareだと思っているが、実際は12-15%。なぜなら私たちは90% の思考、感情、判断、行動を無意識のうちに自動的に行っているから」と説明していました。まずは自己認識がどのくらいできているのか、というところからスタートする必要があるようです。

なぜリーダーシップにSelf-awarenessが必要かということについて、上記のセッションでは、仕事でのパフォーマンスとEmotional intelligence Quotient(EQ)に高い相関がある、すなわちEQを高めることがリーダーにとって不可欠との説明がありました。「EQが高い人」というと、他人の感情を察知する能力が高く、相手に合わせたコミュニケーションが取れる=「コミュニケーション能力の高い人、思いやりのある人」と思われがちですが、EQを構成する要素はSelf-awarenessとOther-awarenessであり、EQを高めるためにはまず、自分のことを客観視し、今どう感じているのか、なぜそう感じているのか(なぜ怒っているのか、悲しんでいるのか)に意識を向けることにより、それらの感情にうまく対処できるようになることが第一歩となります。

(スピーカーによるプレゼンテーション資料をもとに筆者作成)
(スピーカーによるプレゼンテーション資料をもとに筆者作成)

別のセッションでは、Harvard University Graduate School for Education がまとめた「Next Generations Skills」の順位を、1.Thinking 2.Self understanding 3.Empathy と紹介していました。複雑さが増し、テクノロジーの発達による便利さ、効率、スピードが重視される時代において、コミュニケーションスキルやテクノロジーの知識よりも先に、Self understanding=自己理解力が上位のスキルとして位置づけられることを興味深く感じました。

また、Leadership Agility in the Fourth Industrial Revolution(Ray Linder) のセッションでは、現在進行中の「第4次産業革命」におけるリーダーには、アジリティ(急激な変化の中で賢明な意思決定ができる)が重要であるという、「リーダーシップアジリティ」が紹介されました。そしてリーダーシップアジリティのコンピテンシーとして、まっさきにSelf-awarenessを示していました。その背景には、アジリティを高めるためには、新しいやり方を積極的に試しながら自身が変化していく必要があり、その過程において結果を内省したり他者からフィードバックをもらうことで、より上位のリーダーシップアジリティを身につけていく必要性が語られていました。

これらのセッションを総合して、不確実性が高く、テクノロジーの進化を受けて他者との関係性が複雑化、多様化する中で、自己のありようを拠り所としたリーダーシップに改めて注目が集まっていることを感じました。

Self-awarenessを高める方法としてのMindfullness

では、Self -awarenessを高めるためにはどうしたらよいのでしょうか。そのための有効なトレーニング手法である、マインドフルネス(注1)を取り入れる企業が急速に増えているそうです。

Mindfulness for peak performance, creativity, and resilience(Marissa Afton)によると、マインドフルネスは3年くらい前までは「瞑想」のイメージが強く、ビジネス界で取り上げることに抵抗感があったようですが、グーグルをはじめとする有名企業の導入や、脳科学の発達により実際に脳の働きのポジティブな変化が明らかになり、ここ数年でマインドフルネスに対する認識が大きく変わってきたそうです。実際、参加者の多くがすでにマインドフルネスを実践しており、ポジティブな雰囲気の中で、呼吸に意識を集中しながら1から10まで数をかぞえる5分間のエクササイズを体験しました。マインドフルネスは、脳の筋トレのようなものなので、毎日継続して実践することが重要で、このセッションのスピーカーの会社では無料アプリも提供しています。プラクティスを続けると、Self-awarenessを高めるだけでなく、集中力が持続するようになり、仕事の効率もアップするそうです。

脳科学の裏付けを示すセッションが目立つ
脳科学の裏付けを示すセッションが目立つ

他にもSelf-awarenessを高めるためには、アセスメントツールの活用、フィードバックを求める姿勢、リフレクションを習慣化することなどがあげられます。これまでリーダー育成を考えるときに、他者に対する働きかけや、思考力・意思決定力などにばかりフォーカスし、Self-awarenessに関しては「当たり前」という認識を持っていたことに気づかされました。

(注1)マインドフルネスは、今現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる。(Wikipedia)

内省と実践の繰り返しでMindsetを変えるリーダーシップ開発は可能なのか?

ATD全体の傾向として、リーダーシップ開発において行動の源となる内面に重点をおいていると感じたもう一つの理由が、「マインドセット」というキーワードの多用です。

TEDスピーチや『マインドセット「やればできる! 」の研究」の書籍で有名な、スタンフォード大学教授のキャロル・ドゥエックによって提唱されたGrowth Mindsetという考え方は、ATD-ICEのリーダーシップに関わるセッションでもたびたび紹介されていました。Growth Mindsetとは、人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができるという信念で、新しい経験を積むことにより、自分自身の能力を伸ばせるという前提にたっています。他方のFixed Mindsetは、自分の能力は固定的で変わらないという考え方であり、自分が得意なことや過去に経験したことで能力の高さを示そうとします。失敗したときの受け止め方も異なり、GrowthMindsetを持つ人は努力が足りなかった、次はどうすればよいかと考えますが、Fixed Mindsetの人は自分には才能がないとあきらめてしまいます。ドゥエックはマインドセットをパーソナリティ(性格)と区別して、自分で変えることができるとはっきり述べています。

Become a more emotionally intelligent leader(前出)では、上記のGrowthMindsetに加えて、文献調査に基づきリーダーにとって重要な4つのマインドセットを紹介していました。

(スピーカーによるプレゼンテーション資料をもとに筆者作成)
(スピーカーによるプレゼンテーション資料をもとに筆者作成)

マインドセットとは、これまでの教育、環境、経験などによって形成された思考パターンなので、長年にわたって形成されたマインドセットをポジティブなものに変えていくためにはどうすればよいのか。それにはやはり、まずは自分の状態を正しく認識し、行動計画を立て、内省を行いながら、習慣化するまで実践を続ける必要があります。リーダーシップ開発のトレーニングにマインドセットの変容を組み込んでいく場合、気づきを与えるだけでなく、継続できる仕組みを提供することが重要であることを改めて感じました。

ATD-ICEに参加するまで、リーダーシップは研修でどうにかなるものなのだろうか、という根本的な疑問さえ持っていましたが、自分の感情に対して新たな視点=客観的な視点を手に入れたり、無意識だったマインドセットを見直してみる、ということにより、リーダーシップが求められる背景にかかわらず、多くのポジティブな変化を生み出すことができるのではないかと思うようになりました。今回学んだことを取り入れて、しなやかで変化に強く、自分自身を肯定的に捉え、自身のポテンシャルを信じることができるリーダーの創出につながるような、プログラムの提供を目指したいと感じています。

  • 酒入 織花 Orika Sakairi

    酒入 織花Orika Sakairiサイコム・ブレインズ株式会社
    ソリューションユニット
    / コンサルタント

    大学卒業後、東京銀行(現 三菱UFJ銀行)などを経て2003年サイコムインターナショナル(現 サイコム・ブレインズ)に入社。プランナーとして企業研修・派遣プログラムやセミナーの教材作成から講師調整に至るまで全般的な研修プロデュース業務に長年携わる。2016年より現職。趣味は登山と温泉。

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