コラム

2016.07.04

ネット社会だからこそ求められる「顧客との絆」

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鳥居 勝幸 Katsuyuki Torii
鳥居 勝幸 ファウンダー
取締役
ネット社会だからこそ求められる「顧客との絆」

去る7月2日、パシフィコ横浜で一般社団法人RINGの会主催によるオープンセミナーが開催されました。「RINGの会」は、「21世紀にふさわしい代理店経営と保険文化の創造」を目的とする組織であり、保険代理店経営にかかわる様々な問題を学ぶための定期的な勉強会や、年1回のオープンセミナーを開催しています。「保険代理店進化論」と題した今年のオープンセミナーで、私は「顧客関係構築の覇者となる”新保険代理店”3つの条件」をテーマに90分の講演を行いました。私は保険業界の出身ではありませんが、他業界の事例などを交えてお話をさせて頂きました。今回はこの講演のポイントをまとめてみます。(「RINGの会」の詳細はコチラ

「最近営業が来なくなった」「コミュニケーションが下手になった」

まずは、最近よく耳にすることを3つ挙げてみます。

  • 営業の声:「訪問不要論」
  • 顧客の声:「最近営業が来なくなった」
  • 上司の声:「最近の営業パーソンのコミュニケーション下手」

「訪問不要論」とは、顧客はネットで検索して情報を手にしているし、見積りもメールで十分。いちいち訪問していると効率が悪いというもので、これを言うのは営業の人に多いようです。顧客の方は「最近営業が来なくなった」という人が増えていて、この言葉の裏には「もっと自分の方を見て欲しい」「私を自社を理解して欲しい」という要望が込められています。また営業マネージャーは、最近の営業のコミュニケーションスキルの幼さを指摘する人が少なくありません。コミュニケーションの能力そのものは高いのですが、いざ商談となると「子供のようだ」といった評価です。ネット社会だからこそ顧客接点を多くして、絆を強化すべきでしょう。他との差異を生み出したいなら、逆をやることですからね。

講演資料より

利他性の経済学…顧客との関係・コミュニケーションを再構築する

では、これからの営業が向かう方向を挙げてみます。

  • 販売目的の情報提供から、お役立ちの知識提供へ
  • 「モノ」の販売から、 「コト」の解決へ
  • 単品販売から、多面的なお付き合いへ

これまでも営業では情報提供が重要視されてきましたが、どちらかというと、商品販売のための情報提供が主だったと思います。「販売」を一時棚上げして「貢献」のために知識提供してみてはどうでしょうか。「モノ」の販売ではなく「コト」の解決へ。売り手と買い手という一面的な付き合いから「事業成長サポーター」または「幸せサポーター」という自己ミッションを持つ。私は何者かという深い問いから、顧客との付き合い方が変わるかもしれません。営業はまず顧客への貢献を第一義に考える。顧客がネットではできないことを営業がやる。顧客がプロの見解を求めたいときに寄り添っていること。そんな存在価値のある営業を目指してはどうでしょうか。

営業プロセスとは、誰もが知っている通り、「情報収集」、「ニーズ理解」、「提案」、「成約」、そして「購入された商品やサービスによる貢献」というものです。ところが最近、情報収集とニーズ理解でつまずいてしまう。もしかしたら従来型の営業プロセスでは今以上の成果は生まれないのではないか、そんな気もします。顧客はネットによって営業と同等の情報を手にしていますから、営業に情報収集されたりヒアリングされたりするプロセスを端折って、スペックとか価格とか、自分が知りたいことだけを聞いてきます。顧客にとって、いちいち営業の質問に答えるのは退屈極まりない時間なのです。だいたいのことは、営業に会う前にもうわかっていることですから。

では、こう考えてみてはどうでしょうか。「情報収集は、お役立ちポイントを探すため。商品が売れても売れなくても今はどっちでもいい。まずは貢献すること。商売の前にまずお役に立つこと。第一義にそれがある。さて、どうすればお役に立つことができるだろうか」と。こちらから先に貢献しようとすると、相手は信頼してくれて、こちらの提案を受容してくれるようになるものです。

どこの会社でも地域密着営業と言っていますが、その意義を聞いてみると、単に支店を置いてセミナーなどを行っているだけだったりする。地域密着営業とは、地域への貢献がまずあって、だから地域人脈が構築できて、だからこそ、その地域ならではの提案ができるというものでしょう。地域の産業、観光、名産品、歴史、祭り、ボランティア、地域活性化などに関与して、まずお役に立とうとすること。それが地域密着営業の始まりです。

利他性の経済学という研究があります。舘岡康雄氏の著書の前書きから要点を拝借すると、「利他的行為の代表的な例と言えば支援である。これまでのように他者から奪ったり、他者を管理したりしても、自己の利益を最大化できない世界に私たちは入りつつある。自己の利益のためにはまず他者を支援し、他者をして自身を支援してもらうしかない」。ロバート・グリーンリーフはサーバントリーダーシップを提唱しました。それは、まずメンバーに尽くす、貢献する。そうするとメンバーは自分を信頼してくれる。そしてメンバーは自分が示すビジョンを共有してくれるようになる、というものです。サーバントリーダーシップは、上司が部下に対する手法として語られることが多いのですが、「営業」対「顧客」、「メーカー」対「販売店」「日本本社」対「海外現地法人のマネージャー」であっても、同様ではないかと思います。

営業はネットで置き換えられない…相互かつ多面的な付き合いを

顧客に対する貢献のために必要なのが人脈、ネットワークです。顧客のために自分の人脈を使えないかと考えてみる。顧客が悩んでいることに詳しい人はいないか、顧客が検討している商品を選定するために助言できる人は誰か、エキスパート人材を紹介しよう、ゴルフ好きの友人を紹介しよう。逆に、営業パーソンは顧客のネットワークを使わせて頂くこともできます。そのためには、営業パーソン自身が悩んでいることや、成し遂げたいことを自己開示する必要があります。顧客はその話を聞いて「では知り合いに聞いてあげるよ」と言ってくれるかもしれません。人は人の役に立つことを欲するもの、そこに喜びを感じるものなのです。そう考えると互いのネットワークを使うことができる。そこには顧客との多面的な付き合い方があるでしょうし、もっと言うと、広い世界が存在するでしょう。

さて、絆の話です。顧客との絆とは、営業が一方的に顧客に奉仕するというものではなく、相互依存の関係だと思います。営業パーソンはビジネスで顧客に依存している。顧客の方も、自分の課題解決のために営業パーソンに依存している部分がある。ネット社会の営業とは、営業の仕事がネットに置き換わってしまうということではありません。顧客も営業もネットを活用します。まずは営業が顧客に貢献することから始め、次に相互依存の関係をつくる。その関係性の中で商売は永続的に回っていきます。

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