コラム

2017.01.18

「ウィークタイズ(弱いつながり)」に身を置く - 企業とNPOのシナジーを探る②

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鳥居 勝幸 Katsuyuki Torii
鳥居 勝幸 ファウンダー
取締役
「ウィークタイズ(弱いつながり)」に身を置く

「変革」「革新」「多様性」の意義を頭では理解できても…

ひとつの企業で長年働いていると、多くの人は社内に人脈が形成され、人や組織の動かし方に精通していきます。実際に、そうであるからこそ管理職が務まるともいえます。一方、自社の文化が当たり前となって、つい社外の組織を蔑視したり、内向き思考で意思決定したりすることがないとも限りません。立派な事業戦略を立案しても、古くからある強固な組織文化が邪魔をして、戦略遂行の足を引っ張ることもあります。また新規事業やM&Aを成長戦略の柱として定めても、社外の異なる文化を持つ組織とコラボレーションができなければ、そのスピードは早まりません。

だからこそ今、企業は人や組織を変えていこうとしています。チェンジマネジメント(変革)、イノベーション(革新)、ダイバーシティ(多様性)といったことが経営における重要テーマとして取り上げられ、研修などの教育施策も実施されています。しかし、企業に身を置く人が自らの視野を広げたり、これまでとは異なる視点を持ったり、多様性を受け入れたりするためには、日常とは違う場に身を置きながら通常業務ではない仕事を経験することが必要でしょう。頭でわかっているだけでは、本当の学習や経験は得られないからです。

皆さんの会社が社員に対してNPO活動を奨励したら…

そのような学習や経験の場として、企業はNPOとのコラボレーションを考えてはどうかと思います。自社が支援している団体やOBが運営している非営利組織など、何らかの関わりのあるNPOを定め、そこでの活動を社員に奨励する。月のうち何時間かは勤務時間中のボランティア活動を認める。NPOでの副業収入を認める。企業研修の一環としてNPOでの活動を取り入れるなどです。

NPO活動に参加することで身をもって学習するのは、「誰かをハッピーにすることの喜び」と「感謝される充実感」でしょう。それについて、マネジメントの父たるP.F.ドラッカーがかつて語った興味深いメッセージがあります。

NPOが成果をあげて成功するには、いかなる変化を外の世界に起こすことを自らの成果とするかを明らかにし、そこに焦点を合わせなければならない。(中略)メンバーは知識労働者として社会に変化を起こそうとする。メンバーが求めているものは第一に活動の源泉となるべき明確な使命である。(中略)私が教えている経営幹部のほとんどがボランティアとして働いている。理由を聞くと、例外なく、企業の仕事はやりがいが十分でなく成果や責任が十分でない。使命も見えない。あるのは利益の追求だけとの答えが返ってくる。(『チェンジ・リーダーの条件』より)

もし仮に、皆さんの会社が社員に対してNPO活動を奨励したとしたら、どのような変化が起こるでしょうか。たとえば、社外での活動を通じて世の中に必要な新しいサービス事業のヒントが生まれるかもしれません。また優秀な人材の確保によい影響が出るかもしれません。今後増加するシニア人材の活用の場が増えるということもあるでしょう。

「ウィークタイズ(弱いつながり)」に身を置く

企業が次世代のリーダーを育てるためにも、NPOは有効な場として活用できると思われます。参加者は活動の現場で多様な人々と接し、自分の意志で変化を起こしていきます。そこは権限も上下関係も曖昧なピア(対等)な世界ですが、それぞれの参加者が持っている主体性が出会うことで化学反応が起こり、驚くべきスピードで物事が決まっていきます。やるべきかどうかよりも、やりたいかどうか。利益が出るかどうかよりも、活動の対象者(顧客)が喜ぶかどうか。誰の指示を聞くかではなく、この人たちとやりたいと思うかどうか。そのような価値観がモチベーションの源泉となっています。一時的にでもそこに身を置いた人は、会社組織との違いに驚くかもしれません。そして、組織マネジメントのあり方を考え直すキッカケを得ることができるでしょう。

企業組織は同質の人々の集まりと言ってもいいでしょう。それと比べてNPOは異質な人々の集まりです。前者が強連結の人々であることに対して、後者は弱連結の人々です。強連結の間柄には秩序があり、お互いに責任があり、突拍子もない発言や行動を避ける傾向にあります。弱連結の人々は、思いつきや無責任な発言を許容し合い、そこから生まれるワクワク感を大事にします。そのようなコミュニケーションから新しいサービスが生まれてくることも珍しくはありません。

マーク・グラノヴェッターという社会学者は、ホワイトカラーの転職活動を調査した結果、自分とまったく違うコミュニティーにいる人とつながった方が大きな価値が生まれるという事実を発見し、そのつながりを「ウィークタイズ」(弱いつながり)と称しました。その真逆がたとえば父親です。普通は、子供が父親に就職先の相談をしたら無難な企業名を挙げるでしょうが、「お前はギターがうまいからミュージシャンでデビューしろ」とは言わないでしょう。そこには既定路線を踏襲する、リスクを避けるという作用が働きやすく、逆に新たな価値は生まれにくいものです。会社からチェンジマネジメントやイノベーションを期待されているマネージャーが、NPOというウィークタイズの中に身を置く学習効果は大きいのではないかと思います。

まずはセミナーから参加してみよう

メインの仕事と並行してNPOに参加することが難しい人は、興味をもったNPOが主催するセミナーに参加してみてはいかがでしょうか。自社の中では経験できないことを通じて、多くの気づきを得ることができます。

昨年の12月4日、東京の武蔵小杉で開催された「ダジャーレdeござ~る」に参加しました。これは「日本だじゃれ活用協会」という一般社団法人が主催している半日のセミナーです。代表の鈴木英智佳氏によると、ダジャレは場の雰囲気を和らげたり、心にゆとりをもたらしたりと、その効果は絶大。また、商品のネーミングにダジャレが使われることも少なくないとのこと。この団体で活動しているメンバーは「ダジャレンジャー」「ダジャレディー」などと自称する人たちです。この日のセミナーのファシリテーターは、「しんちゃん」という人で、本業は弁護士さん。私とペアを組んでダジャレPK合戦に臨んだ人は、IT機器メーカーでマーケティングの仕事をしているとのことでした。私たちのペアは見事優勝し、ダジャレに対する自信を深めました。そして、場におけるユーモアの効果を実感しました。

12月10日には、私が関与しているNPO「ワクワク営業応援団」の活動として、「千葉県よろず支援拠点」から委託を受けて「組織の成果は意識チェンジから生まれる!ワクワクマネージャーセミナー」と題したセミナーを開催しました。この日は私が講師を務めました。師走の忙しい時期にも関わらず、15人の経営者が参加されました。このセミナーの狙いは、「部下に対する見方を変えて、もっと強みを引き出そう」というものです。

参加者からは、「沢山、気づきを頂いた」、「とても良かった。是非、社員を参加させたい」、「なかなか聞けないセミナーだったと思う」、「楽しく参加することができた」、「すごく良かった。今後に活かしていきたいと思った」といった声をいただきました。

また12月22日には、愛媛県の新居浜市の「NPO能力活用ネットワーク」が主催する講師向けの講習会がありました。この講習会は、今後NPOで講師として活動する人たち向けの講師養成研修です。この日は私がインストラクターを務め、15名の参加者が講義実習を通じてセミナーの効果的な進め方を共有しました。

中にはプロ講師として活躍中の人たちが何人かいて、ファシリテーションの腕前については既に相当なものをお持ちの方も多かったのですが、「参加して楽しかった」、「講義の勉強になった」と言って頂きました。講師として原点を見つめなおす機会になったのかもしれません。この「NPO能力活用ネットワーク」は、シニア人材の雇用創出を活性化させることが活動目的で、四国で総合人材サービスビジネスを展開しているアビリティーセンター株式会社(三好潤子社長)が支援しています。ここにも企業とNPOのコラボレーションのカタチを見ることができました。

「ワクワク営業応援団」も活動を始めてから4年が経ちました。2017年は、提携していただける他のNPO、応援していただける企業・自治体とのネットワークをさらに広げていきたいと思っています。今年もよろしくお願いいたします。

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