コラム

2017.10.06

既存顧客・ベテラン営業に依存しない体質へ ― 長野県岡谷市にて

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鳥居 勝幸 Katsuyuki Torii
鳥居 勝幸 ファウンダー
取締役
既存顧客・ベテラン営業に依存しない体質へ

9月14日、長野県中小企業振興センターが主催するセミナーに登壇しました。対象は企業の経営者や管理職で、当日は40名近い方が参加されました。会場の「テクノプラザおかや」がある諏訪湖畔の岡谷市は、精密機械工業・部品加工業の集積地として有名です。

参加企業の多くが抱える課題は、少数の既存顧客からの請負に依存しない経営体質の確立。つまり、新しい分野・新しい市場の開拓です。グループディスカッションでは、営業人材の育成に関する意見交換が多くなされました。この稿では、ディスカッションで挙げられた主な課題とそれに対する私のコメント、そして当日お伝えしきれなかったこともあわせてご紹介いたします。課題解決の正解は一つというわけではありませんが、何らかのご参考になれば幸いです。

課題1 営業社員の技術知識の不足

営業社員は技術に関する知識が乏しく、決められたことを話すことはできるが、応用がきかない。常に技術者が営業に同行しなければならず、効率が悪い。

自分が得意とする商品は顧客に提案するが、あまり知らない商品は提案しないという営業の人が多く、苦手な領域はいつまでたっても知識が身につきません。多くの場合、対策は勉強会の実施となりますが、これがなかなか続きません。やはり、未経験の商品を提案せざるを得ないミッションや目標の設定、そのPDCAを回すマネジメントの仕組み、そして知識を補完するエキスパートの設置が現実的かと思われます。

課題2 若手営業社員の育て方がわからない

若手営業パーソンをどうやって教育すればよいのかわからない。社内に教育方針やカリキュラムがない。それをどう構築し完備すればよいのか。

営業という世界はとかく暗黙知のかたまりで、チームの業績は凄腕の中堅やベテランの個性に依存しているようなところがあります。しかし彼らの個性は教えることも真似ることもできません。やはり、明確なプロセスとスキルに分解して、手法を可視化することから始めなければならないと思います。教育カリキュラムなどと大上段に構えないで、まずは営業プロセスごとのスキルをシンプルに整理し、ロールプレイトレーニングを定期的に実施してはどうかと思います。楽しい雰囲気でやることが継続のコツです。

課題3 世代間ギャップとコミュニケーション

上司・年配社員が、若手社員とどうやってコミュニケーションを取ればよいのか、何を話せばよいのかわからない。

最近、部下とのコミュニケーションが問題だと話すマネージャーが多くなったと感じます。確かに、コミュニケーションは気になるところではありますが、「つまり何が課題なのか」と考える必要があると思うのです。実際、多くの部下と均等に仲良くなることはできませんし、私的なことを話すのにとまどう人や、飲みに行くのを嫌がる人もいると思うのです。それよりもまず、業務時間の中で仕事のことをきちんと話せることが大切です。大事なのは、部下の話をしっかりと受け止めていること、そして部下に伝わるように伝えることでしょう。信頼関係は仕事で培われるものだと思います。

課題4 未経験の案件、新しい分野への対応

自社ではやったことのない設計や製作の引き合いが来たとき、それをこなせないために受注できないことがある。どうやって受注し新分野の実績をつくるべきか。

ビジネスには、たとえ粗利は少なくてもそのチャンスを生かさなければならないことがあるものです。少数の主要顧客への依存度を下げて新規分野を開拓したいと考えている会社や事業部はなおさらでしょう。しかしながら、来るもの何でも請けるというわけにはいきません。そこには自社の戦略が必要で、どのような新規分野で成長したいのかを計画しておく必要があります。その分野において、協力会社のネットワークを構築していくのだと思います。

課題5 見込み客に対するアピールが弱い

休眠顧客や新規見込み客に対するアピールが弱い。少数の顧客に依存している体質を変えるために、新たな市場・顧客を開拓したいのだが。

新規見込み客に訪問した際に、誰でも名刺を交換し自社紹介を行っていると思いますが、それがパンチの効いた能力開示になっているかどうかが問題です。能力開示とは、自社や自分の能力を伝えて相手の期待感を高めることを示しています。顧客は相手の会社や営業パーソンに対して感じた期待の度合いによって、話す情報の量や質を決めています。期待感が高ければよい情報(真のニーズ)を話してくれます。そうでなければ表面的な対応しかしてくれないでしょう。営業の方は名刺1枚で、あるいはパンフレット1枚で、自社や自分をどこまで語れていますか?

課題6 働き方改革の中で顧客接触が手薄に

営業の人数や労働時間に限りがある中で、どうしても疎遠になる顧客がでてくる。この条件下でどう営業して成果を出せばよいのか?

この悩みの多くは、移動時間のかかる遠方の顧客を担当している場合ではないでしょうか。ある会社で営業パーソンの消費時間分析を行ったところ、労働時間の半分以上を車の運転に充てているという結果が出て、これで業績が上がるはずはないという話になりました。すべての顧客に訪問しなければならない、というのも一種の固定観念かもしれません。もちろん、信頼関係を築く段階では直接会う必要がありますが、そのあとはメールと電話でやり取りする習慣をつくることです。とくに、いつでも携帯電話で話せる関係であることがポイントだと思います。

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