タレントマネジメント『研修以前の問題』としての、個と組織のアラインメント

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対談

2016.06.27

西田 忠康
西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社 代表取締役社長
左: 韮原 光雄 氏 / 右: 西田 忠康
左: 韮原 光雄 氏 / 右: 西田 忠康

研修などの育成施策をタレントマネジメントの要素としてとらえた場合、研修の内容を考える以前に対象者、つまり「誰に研修を施すべきか」を考えることが重要です。そして対象者の選抜にあたっては、客観的で信頼性の高いアセスメントの活用が有効です。今回はDiSC®など様々なアセスメントを提供するHRDグループの韮原光雄代表にお話をお聞きしながら、タレントマネジメントにおいて日本の組織が抱える課題について考えていきいます。

教室の中に『いるべきではない人』がいる

韮原 光雄 氏
韮原 光雄 氏HRDグループ代表/プロファイルズ株式会社 代表取締役
山口県出身。明治学院大学卒業後渡米。帰国後、米系人材教育会社のセールスコンサルタント、ゼネラルマネジャー歴任後、起業。DiSC®アセスメントを1991年に国内導入し、HRD、HRDコンサルティング、プロファイルズ設立。
  • 西田 忠康
    今日はよろしくお願いします。
  • 韮原 光雄 氏
    よろしくお願いします。
  • 西田 忠康
    サイコム・ブレインズは、このたびHRDグループの提供するProfileXT®の戦略的パートナーとなったわけですが、あらためてこのアセスメントを日本に導入した理由あるいは背景をお聞きしたいのですが。
  • 韮原 光雄 氏
    理由は二つあります。一つはDiSCを提供しているパートナー企業や認定講師からのフィードバックです。御社をはじめ多くの方がDiSCを研修の中で使って、その効果を評価していただいているわけですが、その中で「DiSCを採用や配属にも活用できないか?」というご意見がありました。でも、それはちょっと無理があるんです。
  • 西田 忠康
    無理があるというのは、どういうことでしょうか?
  • 韮原 光雄 氏
    研修の目的、たとえば「マネージャーが部下育成について学ぶ」とか、そういう目的においてDiSCは最適であると。でも、その研修の教室の中に「いるべきではない人」、つまりそもそもマネージャーとして適格でない人がいる場合、その人は研修だけではレベルアップはできないし、ひいては会社もレベルアップできない、ということになります。そこで「適材適所を測るツールはないのか?」という話になるわけです。
  • ProfileXT®
    人材が組織内の特定の職務にどれだけ効果的にフィットするかを測定するアセスメント。採用、選抜、育成、マネジメント、戦略的な人員配置に活用できる。著作権はWiley社所有。
    DiSC®
    心理学者ウィリアム・M・マーストン博士により提唱されたDiSC理論をベースに、1970年代に開発された自己分析ツール。職場で人がどのように自分を認識しどのように行動するかを「D主導」「i感化」「S安定」「C慎重」の4つの行動特性で測定する。著作権はWiley社所有。
  • 韮原 光雄 氏
    ProfileXT®を日本に導入したもう一つの理由は、日本のエンゲージメント指数の低さです。アメリカのGallup社が行った調査で、「社員がどれだけ本気で会社がめざすビジョンと方向性を共にし、コミットしているか」を国別に調査したものがあります。10年以上前の調査ですが、日本はエンゲージしている人が9%で、アジアの中でも最低だったんです。一方エンゲージしていない、単に時間を提供している人が67%、そして能動的にエンゲージしていない、つまり反対意見しかいわない、あるいは不平不満ばかりばらまいている人が24%、という結果です。
  • 西田 忠康
    エンゲージしていない人は、会社から飛び出して転職したいと思いますよね。外国では特に。でも日本では転職のハードルが比較的高いということもあって、不平不満があっても会社に留まる。だからエンゲージメントが低い、というのが一般的な解釈だと思いますが、どうなんでしょうか?
  • 韮原 光雄 氏
    そうですね。エンゲージしていない人、働きがいを感じていない人が会社にいると、生産性の低下、ストレス、不満などいろいろな事象が現れますよね。だからこそ、働きがいを感じながら仕事をしてもらうために「どの職務にどの人をつければよいか」ということを測るアセスメントのニーズがあった。それでProfileXT®日本語版の開発に至ったわけです。
  • 西田 忠康
    この調査を見て、「いやいや、自分たちは会社に対してロイヤルティを持っているし、自己を犠牲にしてでも会社の方針に従っているよ」と感じる人も多いと思います。同時にそういう人たちは、「ウチの会社では、職務と人のマッチングはある程度できている」と思い込んでいる場合が多いかもしれませんね。
  • 韮原 光雄 氏
    経営者がビジョンを示して、会社の存在意義やミッションを明確にして、組織を一つの方向にアラインメントしていく。そして個々の部門や社員が目標を持ってビジョンへ向かっていくのが理想的なのでしょうが、果たして働いている人たちが実際にそうかというと、そこは疑問です。多くの場合は会社から与えられた仕事、漠然ともらった仕事、それに対して一生懸命働いているというのが実際ではないでしょうか。
  • 西田 忠康
    そもそも「一生懸命働いている」と「エンゲージメントが高い」は違いますからね。
  • 韮原 光雄 氏
    違いますね。一生懸命ではあるけれど、この調査のようにただ長い労働時間を提供している、あるいは不平不満が多い人もいるわけですし。
  • 西田 忠康
    お話していて思ったのは、変化が少なく安定していて特に問題がない状態であれば、単に一生懸命でもいいのかもしれませんが、現在のように経営環境の変化が激しくて、組織を変革しなくてはいけないときには、その変革のスピードとか質は、本当の意味でのエンゲージメントが大きな影響を与えますよね。
  • 韮原 光雄 氏
    一般的にはそういうふうに捉えてもいいと思います。しかし、エンゲージメントの高い低いだけでは、説明が漠然としています。結局は一人ひとりがどういう特性を持っているかです。「すぐ変われない人」なのか、「変わることに抵抗がある人」なのか、あるいは「すぐに変われる人」なのか。周囲を巻き込んで成果を出す人もいれば、安定して変わらず着実にやっていく人もいる。DiSCでいえば4つの行動特性のうち個人の中でどれが高いか低いか、そして組織の中でどんな行動特性の人が多いかだと思います。
  • 西田 忠康
    企業がその戦略をどんどん変えていくような時代になると、日本の会社も変革を意識しながら、それぞれの職務にフィットする度合いがより高い人を集めていくのがよい。だからそのようなことを把握できるアセスメントが求められている、ということでしょうか?
  • 韮原 光雄 氏
    そうですね。付け加えると、組織が変革を起こすには、変革を推進するための高度人材が必要なわけですが、そういう人を採用してもすぐに辞めて他に移ってしまう、というのも大きな問題になっています。その問題の背景にも人と職務のミスマッチがあります。

社員の「就社」意識、人事の「ウチの会社」意識

西田 忠康
  • 西田 忠康
    職務に対するミスマッチの問題を考えるとき、よく日本の新卒採用のようなシステムの話になりますが、学生が就職活動を経て入社して、何か月か研修をして、配属が決まって、現場で仕事を覚えて、しばらくたつと何となく皆と同じような考えになってしまうというか、就職活動や入社したての頃の輝いた感じがなくなりますよね。
  • 韮原 光雄 氏
    いい学校を出て、いい会社に勤めて、という考えがまだ根強くて、就職するときに「会社で選ぶ」わけですよね。自分が本当に何をやりたいかではなく会社で選んで、その中でも安定した会社であれば将来そこにずっと勤められるだろうと。それでも実際には数字でわかるように、多くの人がすぐに辞めていく。
  • 西田 忠康
    そうですね。
  • 韮原 光雄 氏
    アメリカにはO'NETというものがあります。学生が世の中にはどういう仕事があって、どういう人が望まれているのか、といった情報を知ることができるシステムを、国として提供しているわけです。日本ではそういうものが国として何もないわけです。そのあたりから変えていく必要があると思います。
  • O'NET
    Occupational Information Network。アメリカの国立O'NET協会が運営する職業に関する総合的なデータベース 。インターネット上で公開されており、求職者が自分の経験や能力を活かせる職業がどのようなものか検索することができる。O'NETのデータは、ProfileXT®において、特定の職務で成功する特性をモデル化する際に活用されている。
  • 西田 忠康
    よくいわれることですが、やっぱり「就社」でなくて「就職」であるべきなんでしょうね。営業をする人、商品開発をする人、経理をする人、職務ごとにフィットする人材は違うんですよね。
  • 韮原 光雄 氏
    おっしゃる通りです。
  • 西田 忠康
    ProfileXT®を人事の方に紹介するようになって、あらためて気づいたことが二つあって。一つは、人事は会社全体を見ているということもあって、「ウチの会社の人たち」というグルーピングをしたがる傾向にあると思います。MRのグルーピングとか、品質管理のグルーピングとか、というようにはパッと考えることがあまりないように思います。もう一つは、職務に対するフィットの話になると、「金太郎飴をつくるだけではないですか?」というような反応が返ってくることもあります。何か理由があって、できるだけ違う人たちをいっぱい集めたほうがいい場合を除けば、やっぱり職務に対するフィットというのはそれなりにあると思います。
  • 韮原 光雄 氏
    そう思います。「ウチの会社」という括りをしていると、どうしても他の会社と比較したくなりますよね。そうではなくて、それ以前に「ウチの会社のこの仕事」で考えるべきなんです。どういう考えを持っている人間が必要なのか、どういう行動特性を持って、どういうことにモチベートされる人間が必要なのか。
  • 西田 忠康
    例えばビルメンテナンス会社であれば、「ビルメンテナンス会社に適した人」ではなく、例えば「ビルメンテナンス会社のアカウントマネージャーには、こういう人が必要だ」というように具体的に考えるべきです。あとは「その中でもハイパフォーマーはどういう人か?」とか、「今後こういう外的要因が入ってくると、アカウントマネージャーのあるべき姿はこのままでいいのか?」といったことも考える要素になってきます。
  • 韮原 光雄 氏
    やはり時代が変わって、環境が変わって、求められる人材も変わってきますから、少なくとも1年、あるいは1年半ごとにそれを見直していく、常にアップデートしていくということが大事ですよね。

高度人材の仕事に必要なスキルの90%は、トレーニングだけでは解決できない

韮原 光雄 氏
  • 西田 忠康
    職務へのフィットを高めるために、我々のような研修会社の仕事としては、「知識やスキル、あるいはマインドを身につけるための研修をしましょう」といった話をしがちです。しかし、この問題はもっと根深くて、本来は育成という要素だけでどうにかなる問題ではないですよね。
  • 韮原 光雄 氏
    そうですね。研修以前の問題というか、研修でできることと、その前段階で考えるべきことがありますよね。昨年末にWiley社のジェフリー・シュガーマン副社長がグローバル人材の育成とマッチングに関するスピーチを経団連でしたのですが、その中で彼が話したことの一つは、「高度人材の仕事に必要なスキルの90%はトレーニングだけでは解決できない」ということでした。
  • 西田 忠康
    我々もよく「研修で変われるのは10%ですよ」といいますね。
  • 韮原 光雄 氏
    では残りの90%、つまりトレーニングないし研修の他に大事になってくるのが、繰り返しになりますがミスマッチの回避、職務とのフィットです。これは採用・選抜・評価・育成といったタレントマネジメントのサイクルにおけるすべての要素にかかわってくるんです。個々人が職務にフィットしていないと、それぞれの要素で無駄なコストがかかることもあるわけです。
  • タレントマネジメントサイクル
  • 韮原 光雄 氏
    結局、タレントマネジメントに関して考えていない人事、戦略を持っていない人事・経営者は、高いコストを払っているんです。高いコストというのは、生産性やパフォーマンスあるいはモラルの低下、社員の不平不満、無駄な研修費、配置した後で分かった不適合な人の再配置といったことです。
  • 西田 忠康
    ミスマッチの回避、あるいは職務へのフィットの問題は、それだけを断片的に捉えると、先ほどの話のようにどうしても「金太郎飴をつくるんですか?」みたいに思われてしまうところがあります。しかし、タレントマネジメントのサイクルという大きな枠組みで捉えると、金太郎飴ではなく本当はその逆で、「個をちゃんと見ましょう」ということなんですよね。
  • 韮原 光雄 氏
    その通りです。職務へのフィット以外に、例えば福利厚生だとかいろいろなところでの満足度もあるのでしょうが、やっぱりこれからは個々人が本人のためにやりがいをもって仕事する。そういう個人の目指す方向と、会社の目指す方向をアラインメントさせることが必要なんです。アラインメントさせるためにはやっぱり「個」ですよね。個を見ていく必要があるんです。自分自身を知り、相手も知り、自分がどういう行動をとっていくのか、変えていくのか、それが一つの方向性を皆でつくっていくことではないですかね。だから活性化したチーム、活性化した会社ができるわけで、原点はやっぱり個人ではないでしょうか。
  • 西田 忠康
    特に育成に関していうと、いかにパーソナライズするかということですね。
  • 韮原 光雄 氏
    そうですね。個々人が全部違うわけですから、アセスメントの結果を受けてどのように具体的にコーチングしていくのか。また部門や全社をどうするかについてもアセスメントをすることによってわかりますし、誰にどんな研修をするのかを考えてカスタマイズすることもできる。これからは、やはりこういったことへの理解や知見をもった人事、あるいはコンサルタントが望まれると思います。
韮原 光雄 氏

今回の対談では、ProfileXT®の日本導入の話をきっかけに、タレントマネジメントにおける日本固有の課題や、人材を「個」として見ることの重要性をご理解いただいたと思います。次回以降は、実際に企業内でタレントマネジメントに取り組む方々のお話をお聞きする予定です。お楽しみに。

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  • 西田 忠康 Tadayasu Nishida

    西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社 代表取締役社長

    早稲田大学政治経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT) スローン経営大学院経営学修士。
    1985年、NTTに民営化1期生として入社。資金調達、IR、海外事業投資に携わる。1996年、自らのMBA留学での実体験を基に、膨大な費用と時間を費やさずに社会人がMBAの内容を学べる仕組みを作りたいという思いからサイコム・インターナショナル(現サイコム・ブレインズ)を設立。ハーバードのケースを英語で議論するスクールの開校を皮切りに、2003年にはMITスローン経営大学院と共同で技術系経営リーダー育成のためのMOTプログラムを創設。その後、アジア事業の中核人材育成のための事業拠点及び指導者のネットワーク作りに努力し、タイとインドネシアでは有力ビジネススクールとも提携。起業して20年を経過し、従来のグローバルな事業軸に加えて、ICTや教育ビッグデータの活用による企業教育の変革や、ダイバシティ・マネジメント支援等、人と組織に新たな成長空間を創るべく事業を展開。日本MIT会副会長。訳書にデボラ・アンコナ教授他著『分散型リーダーシップの実践 Xチーム』(ファーストプレス)。地理への興味に由来する旅行好きで仕事とプライベートを合わせれば40カ国以上を訪問。

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