学習と仕事のつながり3年後の事業環境で勝てる人材を育てたい
エレコム商品開発部・キャリアパス構築プロジェクト

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インタビュー

2016.08.16

小西 功二 Koji Konishi
小西 功二サイコム・ブレインズ株式会社 ディレクター / シニアコンサルタント
左: 梶浦 幸二氏 / 右: 小西 功二

短期的な成果を実現するために、「今この時点で身につけたい知識やスキル」にフォーカスを置くことも、人材育成のひとつの形です。一方で、将来の事業環境の変化を見据えること、あるいは自社が持つ価値やスピリッツをあらためて問い直しながら、必要な人材像とその育成を考えることも必要ではないでしょうか。

今回はそのような施策の事例として、エレコム株式会社・商品開発部様で実施した「キャリアパス構築プロジェクト」をご紹介します。パソコン周辺機器やスマートフォン用アクセサリーだけでなく、現在はヘルスケア関連や高級オーディオなど、新しい領域でもヒット商品を生み続けているエレコム様。その商品開発を担う人材の育成について、サイコム・ブレインズの小西が、当プロジェクトのキーパーソンである梶浦幸二常務取締役にお話をうかがいます。

3年後の事業を考えたら、そこにアサインできるメンバーがゼロだった

梶浦 幸二 氏
エレコム株式会社 常務取締役 商品開発部 部長 梶浦 幸二 氏
  • 小西 功二
    今回は商品開発部様で実施した「キャリアパス構築プロジェクト」についてインタビューをさせていただきます。キャリアパスに基づいた研修はまだ走り出したばかりですが、まずはここまでの振り返りという意味で、是非よろしくお願いします。
  • 梶浦 幸二 氏
    こちらこそ、よろしくお願いします。
  • 小西 功二
    はじめに御社の現在の事業について、このウェブサイトをご覧の方にご紹介したいのですが。
  • 梶浦 幸二 氏
    エレコムというと、家電量販店などでパソコンやスマートフォンの周辺機器やアクセサリーをご覧になった方もいると思いますが、最近ではヘルスケア関連の製品など、様々な分野に取り組んでいます。エレコムでは「ヒューマンインターフェース」とか「ライフスタイルイノベーション」と表現していますが、いわゆる本体機器があって、その周りを補完していくという事業なんですね。昔はパソコンというと「使う側にある程度のリテラシーがないと使えないもの」、つまりマニアの世界だったんです。そういったものをエレコムの製品で使いやすくするのが我々のミッションです。最近はヘルスケアの領域でもITとの連動がどんどん生まれていて、例えば体温計で測ったデータをWi-Fiで飛ばして記録しようとなると、ちょっと面倒になるんです。それをわかりやすくしていくというのが、我々の事業領域なんだと思います。
  • 小西 功二
    事業領域も広がる中で、梶浦常務ご自身の役割についてはどのようにお考えですか。
  • 梶浦 幸二 氏
    私は開発の責任者ですが、もともと美術大学を出た関係で、デザインがバックグラウンドにあるんです。だから、エレコムの中で私がずっとやってきたのはまずデザインで、「美しく」とか「かっこよく整えること」に加えて、もうひとつは先ほどの「わかりやすさ」です。デザインってやっぱり「感覚的な性能」だと思うんですよね。
  • 小西 功二
    「感覚的な性能」ですか。それは例えばどういったことでしょうか。
  • 梶浦 幸二 氏
    「このパソコンのCPUは…」とか、そういうスペックとは違って、デザインって「良い・悪い」とか「好き・嫌い」があるじゃないですか。エレコムの製品を買いにいこうと思って店に足を運ぶ人は、たぶん全体の半分もいない。「テレビにつなげるケーブルが欲しい」といって店にくる人もいますが、ほとんどの場合は「テレビを買いに行ってついでにケーブルを買いました」といった「衝動的な偶然の中での消費」なんです。一瞬で「欲しい」と思ってもらえなかったら売れません。だから、デザイン系出身の者としてエレコムでこだわってきたのは、そういう「感覚的な性能」を磨くことだったんです。
  • 小西 功二
    今回のキャリアパス構築でも、そういった「感覚的な性能」を言葉で伝えるといった要素は、職能を定義するうえで反映されていますよね。ここで今回のプロジェクト、キャリアパスを構築するに至った背景をあらためて振り返りたいのですが、当時の梶浦常務の問題意識はどんなところにあったのでしょうか。
  • 梶浦 幸二 氏
    かねてから「開発部門がちょっと活性していないよ」と社長の葉田からいわれていて、私自身もそれは非常に強く感じていました。大企業病ではないのですが、定型的な業務をルーティンで回している感じでしょうか。その業務の精度もどんどん高くなっているのですが、平たく言って「面白味がないな」と感じていました。
  • 小西 功二
    「面白味がない」というのは、商品開発部の全体にいえることだったのでしょうか。
  • 梶浦 幸二 氏
    特に若い社員ですね。新卒を含め若い社員を毎年採用しているのですが、若いのに若くないというか、頭が柔らかくないというか。「新しいものをどんどんやっていこう」と旗を振っているのは、社長を筆頭として私やチームリーダーで、若手はそれを冷やかに見ている雰囲気が若干ありまして。活力ある組織は本来その逆なんです。若い人間がどんどん新しいことを熱望して、上がそれをうまく誘導していくべきなのに、商品開発部はその逆だった。それでサイコム・ブレインズさんに相談をした、というわけです。
  • 小西 功二
    そのご相談を受けて、まずはワークショップ形式で「商品開発部のあるべき姿」を検討することから着手したわけですが、その際「3年後の事業環境の変化」をイメージしましたね。
  • 梶浦 幸二 氏
    普段から当然数字は見ているつもりなんですが、ワークショップでホワイトボードに円グラフを描いて、各事業の今後の伸びしろを可視化してみたら、「これはえらいことになる。このままでは伸びない」ということが改めてわかりました。そして「ではこれから何を伸ばしますか?」といったときに、今取り組んでいるヘルスケアとか、今までやったことのない新しい領域を本気で伸ばしていかなければならない。ところが、現状そこにアサインできるメンバーがゼロだということに気づいて。「このままではいけない。育てるか採用するしかない」ということが明確にわかった、そんなディスカッションでしたね。

リスクをとって挑戦するために、自ら「軸」を決めて欲しい

  • 小西 功二
    「あるべき姿」を可視化した後、現状とのギャップを埋めるための人材育成施策として、商品開発部内のキャリアパスを構築することになりました。全9回、約半年かけて多岐にわたる業務を洗い出し、いくつかの職能に分け、それぞれの中でキャリアステップを上がるために求められる要件を整理しましたね。このディスカッションを通して、何か新しい発見はありましたか。
  • 梶浦 幸二 氏
    相当な発見の連続でした。当初、いわゆる研修で育成していこうとか、そのためのメニューが必要だとか、いろいろ考えはあったのですが、他の役員の意見も聞いて「一度、商品開発の業務をちゃんと棚卸したほうがいいんじゃないか」ということになりました。私自身、その時点ではあまりピンときていなかったのですが、ただ一回やってみたら、「わかっているつもりでも、実際にはわかっていなかった」ということが非常に多かったです。私はずっと開発をやっていたので、開発業務については自分の中ではある程度明確になっていると思っていたのですが、様々な業務に必要な要素をちゃんと抽出して、整理して、明文化してみると、ずいぶん茫漠としていたんだな、という反省がすごくありました。
  • 小西 功二
    さらに御社の場合、事業領域もどんどん広がっていますので、開発業務もかなり変化してきていると思うのですが。
  • 梶浦 幸二 氏
    そうですね。私はよく「全員事業部長」と言っていますが、単に作るだけじゃない、企画屋でもない、マーケティングだけでもない、一つのカテゴリーを担当したら終始一貫して全部やるんだということを、ずっと言い続けています。ただ、マーケットの中での戦い方もどんどん難しくなっています。だから、個々の職能がより洗練されて強くならないと意味がない。エレコムの開発は、一般的なメーカーの開発に比べて領域が非常に広くて、いろんな職能が一人の人間に必要ということは当然頭にありました。しかし、今回それを7つに分けて整理することで、あらためて一人で全てを極めるのは大変だなと思いました。
  • 小西 功二
    例えば「マーケティング」とか「デザイン」とか、自分自身のより所や強みを軸として深く認識し行動しながら、それ以外の業務や情報にも興味を持って幅広く取り組むことができる人材、いわば「T字型人材」を育成しよう、というお話になりましたね。
  • 梶浦 幸二 氏
    中途と違って新卒は開発の経験がなく、学生としての学びとアウトプットしかありません。なので面接では「この人は何ができるのかな?」「どんなものを持っているのかな?」というのを探りにいくんですね。私はそれを「軸」と呼んでいるのですが、「自信」「よりどころ」「生きざま」みたいなものって、明確にある人とない人との差があるんです。それを必ず確認するようにしていて。それがある人間は「T字型人材」になれる可能性があると思っています。
  • 小西 功二
    そもそも採用の時点で、エレコムスピリッツみたいなものを感じる人を採用しているわけですね。
  • 梶浦 幸二 氏
    もちろんそうです。特に開発はそういう軸がないと困ります。
  • 小西 功二
    それなのに、入社後先ほどおっしゃったような「活性していない」「頭が柔らかくない」といった課題が出てくるのは何故でしょうか。
  • 梶浦 幸二 氏
    どうしても「失敗したくない」「失敗させたくない」というマインドになってしまうんでしょうね。エレコムでは、失敗したらもちろん笑っては許されないし怒られますが、エレコムでのキャリアが閉ざされるわけではありません。それは理解していると思うのですが、日々忙しい中で、皆そこをうまく泳ごうとするんです。結果として「従来の流れに逆らわずに乗っていこう」「売れていたものを焼き直そう」みたいな思考にどうしてもなってしまって。それでも結果うまくいくので、それを2~3年繰り返していくと、「これでいいや」ってなっちゃいますよね。そして誰もそのやり方に違和感を持たない。
  • 小西 功二
    でも、今後たとえば3年とか、あるいはそれ以上先のことを考えたときに、そのやり方ではいけないと。
  • 梶浦 幸二 氏
    経験していない道を歩かないといけないんです。そういうときのマインドは、目をつぶって海に飛び込むぐらいな感じなんです。暗闇でも、懐中電灯や提灯がなくても、一歩踏み出せるかどうか。それができている人間は、残念ながら中途採用の人間ばかりですね。
  • 小西 功二
    中途採用の方は何が違うんでしょうか。
  • 梶浦 幸二 氏
    彼ら、彼女らは失敗してきていますよね。失敗の怖さも痛さも十分わかりながら、でもチャレンジしないとつまらない、エレコムという会社に入った意味がない。自分のミッションは挑戦だという自覚がありますね。だから暴走するんですよ。やめなさいといっても勝手にやる(笑)。
  • 小西 功二
    でもそこからイノベーションが生まれることって、結構ありますよね。今回のキャリアパス構築は、それもねらってのことだと思いますが。
  • 梶浦 幸二 氏
    確かにそれもありますが、まずは自分がどのレベルにあるのかを知ること、そして自分がその中で何を伸ばしたいかという「軸」を自分で決めることが重要だと思います。「何屋になりたいか」みたいな感じですね。今回、言葉で明確に定義して可視化することで、メッセージとしてメンバーに深く刺さったようです。違和感を持っていろいろ聞いてくるメンバーもいましたが、むしろこれはいい反応だと思っています。

「財務諸表を見る必要なんてない」と思っていたデザイナーが開眼した。

  • 小西 功二
    キャリアパスを構築したあと、それぞれの職能に基づいて、求められる知識やスキルを習得するための研修メニューを体系化しました。キャリアパスをベースとした研修について、これまでの研修と違いを感じることはありますか?
  • 梶浦 幸二 氏
    そうですね。この間、アカウンティングの研修を実施していただきましたが、メンバーの反響がすごく大きくて。どういう反響かと言うと、例えば「自分はデザインに軸を置いていて、マーケティングは結構勉強したけど、B/SとかP/Lを見る人間じゃないという意識があった。でも、触れてみたら開発に必要な知識とわかって開眼した。」といったコメントがありましたね。もちろん彼らも担当するカテゴリーの予算とか、それの売上・利益は毎日のように見ていて、競合の数字もずっと見ています。でも、それはあくまで担当領域のことであって、全社がどうなっているのかというのは見ていないというか、意識もなかったと思うんですね。
  • 小西 功二
    研修の中でエレコムの強さみたいなものを数字から読み解くワークをしましたが、競合他社の財務三表と比べながら読み解いていったので、あらためて気づくことがあったのではないでしょうか。数字を読む力がつくと、たとえば葉田社長がおっしゃる方針とかも、より深く理解できるようになると思います。

さらなる成長のために、異なる価値観を持つ人材をいかにマネジメントしていくか

  • 小西 功二
    最後に御社の今後の方向性についてお伺いします。最近のキーワードでいうと、「IoT」「AI」「VR」といった新しい技術が次々に登場して、御社としてもこれらの領域で展開されていくと思います。もともと御社はファブレスで、モノづくりというよりも、売れるとか儲かるとか、そちらの方にビジネスの軸足があると理解しています。だけれども今後の事業展開を考えますと、技術者をさらに採用して育てていかなければならないですよね。
  • 梶浦 幸二 氏
    そうですね。技術者の採用や育成は大きな課題です。技術系に関しては、私自身もそうですが、会社としてその人たちに響く言葉をまだ持っていないと思います。私はエンジニアと飲みに行くことがあるのですが、その場では会話がすごく盛り上がってモチベートできたかなと思うのですが、本当にやりがいを感じているのだろうか、本音は全然違うのではないかと思うこともあります。
  • 小西 功二
    やはり技術者の方はスピリッツが違うんですね。
  • 梶浦 幸二 氏
    違うと思います。私は技術的な話はできませんが、取り組み姿勢とか、「何のために働いているのか」といったことを気づかせることはできるかなと思っています。彼らの本音や価値観を探ろうとして、今は悶々としていますが、エンジニアの人たちが持っているやりがい、働きがい、喜びがあると思うんです。
  • 小西 功二
    難しいことにチャレンジされていますね。異なる価値観を持った組織や人材をグループとしてどうマネジメントするかというのは、今後の大きなテーマの一つですね。サイコム・ブレインズとしても是非、何かしらのお手伝いをさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
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  • 小西 功二 Koji Konishi

    小西 功二サイコム・ブレインズ株式会社 ディレクター / シニアコンサルタント

    神戸大学文学部卒業、名古屋商科大学大学院MBA。中小企業診断士。
    前職では自動車メーカーのコンサルティングファームにて、系列ディーラーの経営改⾰を⽀援。販売台数の増加、利益拡大、赤字経営からの脱却、後継者育成など幅広い支援業務に携わる。2013年、サイコム・ブレイ ンズ入社。顧客企業のパフォーマンスが向上し、「社員が元気になる」様な研修プログラムの開発・提供に力を注いでおり、人や組織がよりよく変化していく事を体感できることが最大のモチベーション。大阪府堺市出身、趣味は映画鑑賞と車の運転。年に一度は10日間の一人旅に出ている。

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