コラム

2021.06.30

経営リーダーが「DXプロデューサー」になるために ~自社のDX推進を抽象論で終わらせない、最初にとるべき4つのステップ~

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宮下 洋子 Yoko Miyashita
宮下 洋子 サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット コンサルタント
経営リーダーが「DXプロデューサー」になるために

企業の人材開発ご担当者とDX(デジタル・トランスフォーメーション)のための人材育成施策について意見交換をする機会が多くなりました。そこで感じていることは、これまでのいわゆる「業務改革」や「新規事業開発」と、あらたな課題としての「DX推進」、この2者において必要な人材要件がどのように違うのか、明確に定義されていない、ということです。昨年、私はDX人材の採用・育成をテーマにセミナーを開催し、DX人材の要件定義についてご紹介しました。その時はできるだけ抜け漏れなく、DX人材のタイプ別要件や必要な能力をリストアップしたために、それを見て、「自社人材に足りていないスキルだらけ…」「どこから手をつけたらよいかわからない」といった印象を持たれた方もいらっしゃったかもしれません。

また、DX人材育成の具体的施策をお聞きすると、「DXとはなにか?」という定義や事例を中心とした概論的な知識の習得、あるいは社内のDX推進担当者の話を聞く、というケースが多く、その他は従来の業務改革・新規事業開発のための研修と同様に、基本的なフレームワークの習得や、自社課題の解決を経営陣に提言する、いわゆるアクションラーニングを行うことが多いようです。しかし、私はそういった内容の研修だけでは、自社のDXを推進するには不十分だと考えます。

そこで、本コラムでは、セミナーで上げた要件のうち、優先順位がもっとも高い要件とその理由、また企業の成長戦略に不可欠なDXを牽引しなければならない経営幹部およびその候補者が自社のDXを当たり前のように構想できるようになるための育成施策について提案させていただきます。

あまりに広範で高度なDX人材の要件、まずおさえて欲しいのはこの二つ。

昨年のDX人材の採用・育成をテーマに開催したセミナーでは、DXを推進する人材に求められる能力要件を以下のように定義してご紹介しました。この要件だけを見ると、あまりに広範かつ高度すぎて、これらを身につけてもらうにはどうしたらいいかと戸惑われる育成担当の方もいらっしゃると思います。そこで私がお勧めしたいのは、これらの要件の中でも、「デジタル技術リテラシー」と「構想力」の二つを最重要要件として強化するプログラムを研修として実施することです。

一つ目の「デジタル技術リテラシー」とは、自社が持つ既存の技術と世の中に存在するデジタル技術に関するリテラシーのことです。弊社では、経営幹部およびその候補層の事業戦略提言を支援する研修プログラムを数多く行っています。昨今では、受講者から提言される内容にはデジタル技術が含まれるケースがほとんどです。その際、講師から頻繁に聞く指摘は、「参加者が自社や競合、世の中の一般的なデジタル技術によってなにができるかを知らなさ過ぎる」というものです。どのような技術でどのようなことができているかを知らないので、他社事例(ベンチマーク)をもとに、「こうしたことができるのではないか」「これはどうも無理そうだ」、といったようにアイデアを展開したり、意思決定することができない。あるいは、デジタルツールへの切り替えによる不便の削減や効率化といった「デジタル化」は思いつくことができても、デジタルだからこそできる付加価値を考えるといった「DXソリューション」まで持っていくことができない。こうした状況が、企業の経営幹部やその候補層に多く起こっているように思います。まずはデジタル技術をソリューションとしたアイデアを検討できるくらい、かつ自社のIT技術部門やベンダーの言うことを、それ以外の関係者が理解できるように翻訳できるくらいの、一定のデジタル技術リテラシーを身につけていただきたいと思います。

二つ目の「構想力」とは、DXで叶える顧客の理想の姿を構想する力です。 そもそもDXとは、デジタル技術を活用することによって顧客への提供価値を創造し、顧客のニーズに対して大きく応えることです。そのDXの構想においては、「顧客価値」と「デジタル技術ソリューション」を繋げるために、多様な専門家(主に自社のIT・マーケティング・財務と外部ベンダー)を巻き込んで、アイデアを分析・精査・ブラッシュアップするフェーズが必ずあります。この時、DX推進者は、顧客体験の変革・創造にデジタル技術を活用するアイデアをITコンテキストに翻訳して現場に伝え、現場からのアイデアを審議し、専門家との会話を成立させなければなりません。DXを構想するためには、顧客の潜在課題についてインサイトを得て、顧客の課題が解決された理想状態をストーリーとして思い描ける力や、多様なビジョンを数多く構想できる力、顧客の個々の課題解決ではなく、顧客体験をストーリーとしてEnvisioningする力が必要不可欠なのです。

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