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コラム

2023.02.03

学習者の“学習体験”を重視するラーニングエクスペリエンスデザイン【LXD設計のポイント】

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小西 功二 Koji Konishi
小西 功二 サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター
学習者の“学習体験”を重視するラーニングエクスペリエンスデザイン【LXD設計のポイント】

ここ数年、ビジネスの世界で『顧客体験』というキーワードが注目されており、この流れは人材育成の領域にも押し寄せています。つまり、トレーニングの在り方は、「いかにして効果的・効率的に受講者に知識やスキルを身に付けさせるか」という提供者主体の『インストラクショナルデザイン』から、「いかにして学習者に意味のある学習体験を積ませるか」という『ラーニングエクスペリエンスデザイン(Learning eXperience Design:LXD)』へと進化と深化が求められているのです。

本稿では、クリスタル・カダキア&リサ・M・D・オウエンス著、中原孝子訳『ラーニングデザイン・ハンドブック 仕事の流れの中で学びを設計する』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年9月)をベースに、人材育成ビジネスに実務家として携わる筆者の見解を加えながら、LXDの具体的な設計方法について解説していきます。

どう乗り越える? LXD設計の「壁」

学習者の『自律性の尊重』と『主体性の喚起』を考慮した、一連の学習体験をデザインしようとすると、早速壁にぶち当たります。すなわち、「人の好みや価値観は千差万別である」という壁です。どうやってその壁を乗り越えていくか、考え方をSTEP1~5の順に整理してみたいと思います。

●STEP1:学習目標・ゴールの設定

長期的キャリア形成の最終ゴールは千差万別であったとしても、キャリアのステージを数段階に区切れば、各ステージでの中間的ゴール(マイルストーン)はある程度類型化できます。職種ごとに分ければ、より具体的になるでしょう。また、「今の仕事においてパフォーマンスを上げたい」という欲求は、キャリアステージにかかわらず、勤め人であれば誰しも共通するはずです。従って、キャリア形成のステージを数段階に区切って、職種ごとにその時々の“仕事のパフォーマンス向上”を学習の目標・ゴールとして設定すれば、LXDの効果と効率は担保できます。

ところで投資はリターンを前提とするので、人材育成は「組織への貢献」というリターンを目標・ゴールにするべきです。「組織への貢献」を、学習テーマに応じて計測可能なKGIに変換し、設定することが重要です。業務上のパフォーマンスを数値化しにくい職種は確かにありますが、学習前後の“観察可能な行動変容”を具体的にイメージし、その変容がどのような数値になって現れるかを突き詰めれば、KGIは設定できます。

例えば「●●の、××%向上」というフォーマットに、まずは当てはめて考えればいかがでしょうか。具体的には、採用担当者に対して「直近3年間の新卒採用者の離職率を3ポイント下げる」、経理担当者に対して「全社社員の年間の精算業務時間を10%削減する」などです。一旦、目標・ゴールを定量化してしまえば、「どうやって数値部分を測ろうか」という発想になります。また、学習前後の受講者の状態をこのように「具体的にイメージする」ことは、当たり前すぎて見落とされがちな業務上の課題や学習ニーズをあぶり出すことにも役立ちます。

●STEP2:学習者のペルソナ設定

学習の目標・ゴールが定まれば、学習を必要とする対象者は自ずと選定されます。しかしながら、学習者一人ひとりの体験にフォーカスを当てるならば、より細やかなセグメンテーションが必要です。そのために、学習者を具体的にイメージして「ペルソナ」として設定しましょう。ポイントは、ペルソナを“複数”設定することです。

ペルソナを複数設定する理由は、多様な価値観を持つ受講者それぞれに意味のある学習体験を積んでもらいたいからです。それが学習目標・ゴールの達成、ひいてはキャリア形成へのコミットメントを高めることにつながると考えます。とはいえ、受講者の数だけペルソナを設定するのは現実的ではないため、実務的には最低3種類程度のペルソナを設定すれば、全受講者の8~9割をカバーできるのではないでしょうか。

では、ペルソナを設定する際の軸を具体的にご紹介しましょう。まずは基本属性の違いです。年齢、所属部門、職種、職歴、知識やスキルレベル、マインドセットなど、学習目標・ゴール達成までの道のりが比較的「近そうか/遠そうか」という判断軸でまずはいくつかのグループにセグメンテーションしてみましょう。

その上で、各グループが抱える業務上の課題や学習ニーズを分析・検討しましょう。学習者個々人の業績データを分析することも有効です。なお学習ニーズには、就業スタイルの違いやITリテラシーの高低、アクセスできるデジタルデバイスの範囲、業務時間の使い方の裁量の大きさ、コミュニケーションスキルなどに由来する『学習スタイルに対する選好』も含まれます。

課題やニーズを知るためには主要な学習者に直接インタビューしたり、学習者の上司にヒアリングしたりする必要があるかもしれません。アンケートやアセスメント、テストを行うことも有効でしょう。時には仕事の現場を直接観察するなど、一定程度の労力と時間をかける必要があります。重要なことは学習者の課題やニーズをペルソナに生々しく投影することです。基本属性による分類は、学習者の課題やニーズを深掘りするための役に立ちますが、より重視すべきは後者であることは言うまでもありません。

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