Content CurationとMicrolearning
Microlearningをテーマとしたいくつかのセッションでは、コンテンツをどう作るか、つまりコンテンツの生成を中心とした議論が活発だった一方で、その対極であるContent Curationのセッションも人気を集めていました。今回のATD ICEでは、Curationに関しては5つのセッションがありましたが、本稿ではその内の2つについてご紹介いたします。
一つ目はBeyond E-Learningなどの著書で日本でも有名なMarc Rosenberg博士によるFrom Content Creation to Content Curation: An Emerging Critical Roleです。タイトルからも読み取れるように、「コンテンツは作るのではなく、集めればいいのだ」という主張です。Rosenberg博士は、インストラクショナルデザインの分野でPh.Dを取得しており、組織学習、ナレッジマネジメントからパフォーマンス開発までを専門とされている方ですが、今回のセッションも期待にたがわず、内容の濃いものでした。
Marc Rosenberg博士のプレゼンテーションより
結論から言うと、Curationのゴールはナレッジマネジメントにあり、質の高いコンテンツを集め、的確に必要な人に必要なタイミングで届けられるようにする、というものです。これは博士が著書Beyond E-Learningで説いているInformal Workplaceで活用するInformation Repositories の概念を、より具体的、実践的に説明しているものと理解でき、最終的なゴールはナレッジワーカーのパフォーマンス向上にある、ということです。
では実際にContent Curationをどのように進めるのかというと、博士はContent CurationのステップをAggregation(とにかく集める)、Distillation(抽出する)、Elevation(重要なものを選別する)、Mashup(複数から一つの価値を作る)、Chronology(時間順に配列する)の5段階とし、良いコンテンツの条件として、正確性、信ぴょう性、信頼性、包括性、価値、利便性、鮮度など、全部で11項目を挙げていました。
博士が以前説いていたInformation Repositories の概念は、Microlearningの話で時々出てくるMicrolibraryに通じるものがあり、「必要な人が的確なタイミングで利用でき、コンテンツそのものが使いやすいこと」という博士の話は、まさにMicrolearningが実現しようとしている世界観そのものといえます。結果として、CurationとMicrolearningは概念的に密接につながっていると気づかされたセッションでした。
次にElearning Guild のExecutive Vice PresidentであるDavid Kelly氏によるHow to Curate: Putting Curation into Practice for Learning & Developmentについてご紹介いたします。Kelly氏は、インターネット時代になり情報があふれかえるようになり、必要な情報を上手く取り出す技術が必要である、という観点からCurationの必要性と有用性を説いています。そしてDigital Curationもすでに実行段階に移行しているものの、定義自体がまだ明確になっていないとしつつ、方法論としてはレーティング(例としてアマゾンやfacebookなど)、アルゴリズムによる解析、人的なキュレーション作業を挙げ、まだまだ完全な機械化はできていないと語りました。
David Kelly氏のプレゼンテーションより
Curationのステップとしては、Rosenberg博士が使っている用語とは微妙に異なるものの、ほぼ同じ意味合いでAggregation、Filtering(ハッシュタグで絞り込むなど)、Elevation、Mushup、Timelinesの5つとしています。ただし、この内AggregationとFilteringは厳密にはCurationではないと言い切っており、その理由はストーリー性がないから、ということのようです。その背景にはKelly氏自身の「Curationとはストーリーを作ること」という信念があるようです。また、「パーソナルキュレーション」という考え方には矛盾があると唱え、キュレーションは自己のためではなく他人のために行うものであると力説しています。Curationの実践例としては、Webサイトの事例で、The Accidental CuratorやScoop-itの紹介がありました。
最後に人材開発においてなぜCurationが重要かという観点では、Curationにより学習機会が与えられるだけでなく、育てる機会を与えることができるからと述べていましたが、これはRosenberg博士の考え方と一致していると考えられます。