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女性とキャリア女性に対する「ジェンダー・バイアス」は根強い。
ではどうするか?(前編)

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コラム

2016.07.26

太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役

日本のダイバーシティ・マネジメントは、欧米より40年遅れているといわれています。近年、女性活躍推進に向けて様々な施策を行っている日本企業にとって、今後さらに必要なものは何か? サイコム・ブレインズで女性管理職育成プログラムの開発と講師を務める太田が、「ATD国際会議2016」における女性・ジェンダー関連のトピックをご紹介しながらこの問題を掘り下げます。

女性管理職比率40%のアメリカ。日本が学べることはないか?

去る5月22日から4日間、アメリカのコロラド州デンバーで「ATD国際会議2016」が開催され、私は今回初めて参加しました。

現在、アメリカにおける女性管理職の比率は約40%と言われています。対して約11%の日本では、ここ数年企業による女性活躍推進に向けた様々な取り組みがなされており、女性社員、特に女性管理職の育成についてご相談をいただくことが本当に多くなりました。コンサルティングや育成プログラムの開発、および講師としてこの分野に関わる中で、今回のATD参加は貴重な機会と思い、以下のような問いを設定することにしました。

  • ATDにおいて「女性」や「ジェンダー」の問題はどのように扱われているのか?
  • 関連するセッションやブースはどのような内容か? トレンド(共通するメッセージ)は何か?
  • (上記2点をふまえて)日本企業が取り組む女性活躍推進において、特に人材開発の面で今後必要なものは何か?

アメリカにおけるダイバーシティ・マネジメントの歴史

ATDのお話をする前に、まずはアメリカのダイバーシティ・マネジメントについて、その歴史的な背景を簡単に振り返りたいと思います。

1960年代、アメリカではアフリカ系、アジア系、ヒスパニック系などの人種的マイノリティが明らかに差別されており、それらに対し公民権運動が起こりました。このような状況の中で1964年に公民権法が制定され、年齢・性別・人種などによる差別が禁止されました。

1970年代には、アフリカ系女性従業員が不等な差別を受けたことを理由に訴訟を起こし、企業側が巨額の賠償金を請求される、といったことがいくつかの大企業で起こりました。このような状況の中で、ダイバーシティ・マネジメントは、リスクマネジメントにおける重要なテーマと認識されるようになりました。

1980年代になると、ダイバーシティ・マネジメントはCSR(企業の社会的責任)の一環として捉えられるようになり、イメージ向上のためにダイバーシティ・マネジメントに取り組む企業が少しずつ出てきました。さらにアメリカの産業構造における主流が製造業からサービス業にシフトし、さらにグローバル化によって企業の人事戦略も大きな見直しを迫られ、これまで主戦力であった白人男性以外の人々を積極的に活用する必要が出てきました。

そして今世紀に入りビジネスにおけるグローバル化がさらに加速する中で、多様な人材を積極的に登用することが競争力の源泉と捉える企業がさらに増え、女性管理職の比率も飛躍的に伸びていきます。

ATDにおいて女性関連トピックは少ない

このような歴史的背景を持ち女性管理職の比率が高いアメリカでは、現在日本企業が取り組んでいるような女性に特化した人材開発施策はもはや必要ないのではないかと思えます。実際、今回のATDでも女性・ジェンダーに関連したセッションやブースは非常に少なく、300を超えるセッションの内わずか4つ、そしてブース出展はたった1つでした。どのようなものがあったのか、ここにまとめてみます。

セッション

  • Skills to turn Gender Bias Into Influence
    女性が、周囲の男女からより有能とみなされるようになるための、コミュニケーションフレームを提示
  • #LeadLikeAGirl: How Women Ignite Their Impact in the Workplace
    若い女性が、職場において自身の持つ力を存分に発揮するための、4つの方法を提示
  • Practical, Collaborative Skills to Advance Women Leaders
    女性リーダーが、組織で力を発揮するために取り組むべき5つのポイントを示唆
  • Women in Learning Leadership: Lessons From the Field
    人材開発業界における女性が、どのような不平等に直面しどう打ち勝ってきたかを語り合う、パネルディスカッション

ブース

  • WOMEN EVOLUTION
    女性がgreat leaderになるために必要な6つのリーダーシップスキルを提示するとともに、その習得をサポートするための、オンラインによるメンタリングプログラム“WOMEN EVOLUTION ONLINE MENTORING PROGRAM”を紹介
#Lead Like A Girl presented by Tacy M.Byham, Ph.D. CEO
世界最大手の人材コンサルティング企業DDI(Development Dimensions International)のCEO、Tacy Byhamによるセッション。若い女性が職場において自身の持つ力を存分に発揮するために、Declare Yourself(意思を表明する)、Radiate Confidence(自信をみなぎらす)、Fail Forward(次につながる失敗をする)、Super-Power Your Network(ネットワークを強化する)といったメッセージが発信されました。

アメリカでも「ジェンダー・バイアス」は根強い

ATDにおいて、女性・ジェンダー関連のセッションやブースの数は確かに少なかったのですが、アメリカで女性が組織の中でキャリアを積むにあたって、何も問題が存在しないかというと、決してそうではありません。

これらのセッションやブースに通底するメッセージは、「女性が有能であると評価されるためには、効果的なコミュニケーションやふるまいをする必要がある(あるいはそのためのスキルを習得する必要がある)」というものでした。ダイバーシティ先進国のアメリカにおいてもこのような主張がなされているということは、私にとっては予想外でしたし、また大きな発見でもありました。

このような主張の背景として、アメリカのビジネス社会においても「ジェンダー・バイアス」、つまり女性に対する偏った見方というものが根強く存在しています。それを示すものとして、今回私が参加したセッションのひとつ「Skills to turn Gender Bias Into Influence」では、ある興味深い実験結果が発表されました。その実験は、「女性上司と男性上司が、まったく同じセリフで部下に対して断定的な物言いをする」というシーンの映像を男女のモニターに見せるというものです。実験の結果、モニターは男女ともに、男性上司については「有能である」と評価し、女性上司には「(ネガティブな意味で)感情的である」という評価をしたのだそうです。

日本のビジネス社会においてもジェンダー・バイアスというものは根強いですし、女性が組織の中で乗り越えなければならないことは、日常のささいな言動のレベルでもたくさんあると思います。組織の中で女性やその他のマイノリティがキャリアを積んだり、昇進することを妨げる見えない障壁を「ガラスの天井」と表現することがあります。(ちなみに先月来日したジョディ・フォスターは、朝日新聞のインタビューでハリウッドにおける女性への偏見・差別をフィルムの材質になぞらえて「セルロイドの天井」と表現しました。)ジェンダー・バイアスがこうした見えない壁をさらに強固なものにしている可能性はあると思います。

「女性が有能であると評価されるためには、効果的なコミュニケーションやふるまいをする必要がある」という主張は、そうした見えない壁を乗り越えようというエールでもあるのでしょう。各セッションとも「Be Confident (自信を持ちましょう)」というメッセージが繰り返し発信されていたことも印象的でした。

アメリカのダイバーシティ・マネジメントの歴史や現状から、我々は何を学ぶべきか、女性活躍推進を人材開発の側面からサポートするには何をすべきか。次回はさらにこのテーマを深めていきます。


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  • 太田 由紀 Yuki Ota

    太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役

    一橋大学社会学部卒業。株式会社リクルートにて中小企業の新規顧客開拓営業、および求人広告媒体の編集制作を担当。キャリアや人生を自ら切り開き構築する人々とともに歩み、支援したいという思いから1986年ブレインズ株式会社を設立。2008年にサイコム・インターナショナルとの合併を経て同年より現職。同社の人事を統括するとともに、研修プログラムの開発に力を入れる。また、講師としても約1万人への研修実績を誇る。担当研修はリーダーシップ強化研修、意思決定力強化研修、ビジョン立案強化研修、OJT強化研修、キャリア開発研修、UPAビジネスコミュニケーションスキル研修、UPAネゴシエーションスキル研修、UPAコーチングスキル研修など。近年では管理職になったばかりの女性とその候補に対する「女性管理職育成講座」や、女性管理職を育成する立場にある男性上司に対する意識改革の研修を立ち上げ講師を務める。

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