女性とキャリア女性活躍推進における「ロールモデル不在論」を考える

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コラム

2017.04.24

太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役

企業の女性活躍推進ご担当者の多くが、課題として「ロールモデルの不在」を挙げます。また女性社員の多くが「ウチの会社にはロールモデルがいないから、何を目指せばよいかわからない」と言います。そもそもの疑問として、ロールモデルが社内にいないと、女性の活躍は進まないのでしょうか? 今回はあらためてこのロールモデルについて考えてみたいと思います。

女性活躍推進は道半ば…社内にロールモデルはそういない

「ロールモデル(role model)」を英辞書で引くと、“a person that you admire and try to copy”(The Oxford Advanced American Dictionary)とあります。つまり「憧れであり、お手本としたい人物」という意味です。

人は無意識の内にロールモデルを選び、その影響を受けているといわれています。ビジネスパーソンにとっても、ロールモデルが存在した方が、それをお手本にしながら自分なりに行動する→成功(失敗)する→学ぶ→改善する、という成長のサイクルを回すことができます。また身近なところにお手本となる存在がいることで、「安心感を得られる」という要素もあるでしょう。

もし、皆さんの会社の中で管理職として活躍している女性、あるいは管理職ではなくてもリーダーシップを発揮している女性が大勢いれば、その中から自分に合ったロールモデルを見つけることも可能です。しかし、そのような女性があまりおらず、いたとしてもその女性が際立って優秀だった場合はどうでしょうか? おそらく、周囲の女性たちからすれば「あの人は特別だから…」「スゴいと思うし、尊敬してるけど、マネはできない」と考えるのではないでしょうか。これは多くの女性管理職を輩出している企業の女性であっても、例外ではありません。女性特有のバイアス(自信のなさ)から「自分はあの人たちのようにはなれない」と考え、昇進を打診されても断ってしまうケースは、決して珍しいことではないようです。

日本企業における女性活躍推進は道半ばです。会社側が活躍のモデルとなる存在を社内で見つけ、女性社員に示すこと、あるいは女性社員が自分自身にフィットするお手本を社内で見つけること。その両方を実現することは、なかなか難しい状況にあるのだと思います。

「ロールモデル不在論」から一歩踏み出すには?

女性活躍推進におけるロールモデルの議論は、ともすると抽象的なものになりがちです。また「ロールモデルが社内にいないから、女性活躍推進がなかなか進まない」と嘆いているばかりでは、なんの問題の解決にもなりません。

私はこのような「ロールモデル不在論」から一歩踏み出すために、女性活躍推進において企業と女性社員、それぞれが本質的に求めるべきことを、以下のように分解して捉えるべきではないかと考えます。

  • ① 企業が求めるべきこと:組織としての「明確な指標」を持つ
  • ② 女性社員自身が求めるべきこと:主体的な行動によって「憧れの存在」を発見する

以下、①と②それぞれの要素についてさらに解説します。

① 組織としての「明確な指標」を持つ

管理職やリーダー的な役割を果たせる女性を社内で選抜する、あるいは選抜した候補者の女性に対して会社からの期待を明確に伝えるためには、「どのような思考様式、行動様式、スキルが必要なのか?」を明確に定義する必要があります。

指標を設定するにあたってのポイントは、その指標が数値化可能・測定可能なものであることです。また当然のことですが、女性活躍推進の本質は単に「女性管理職の比率を上げる」ことではなく、「生産性や業績をさらに向上させる」あるいは「多様性からイノベーションを生み出す」ということです。よって指標の設定には、組織の戦略や文化との整合性が取れたものでなければなりません。さらに、それぞれの職種・職位に合った指標があれば、個人に対する動機づけやフィードバックができるので、本人にとっても課題や目標が明確になります。

このような指標は、人事考課の指標やコンピテンシー、あるいは「管理職のあるべき姿」といった形で、自社で既に持っているという企業も多いかと思います。一方で、最近はより客観的な指標、グローバルで通用する指標を求めるという意味で、専門の会社が提供するアセスメントツールの活用が進んでいます。たとえばプロファイルズ社が提供する「ProfileXT®」というアセスメントツールでは、様々な職種や職位に関する膨大なサンプルデータをもとに、上記のような条件を満たした指標を企業ごとに策定したうえで、特定の職務・職位で成功する可能性の高い人材を、組織の中から探すことが可能です。

明確な指標を持つことは、もちろん女性社員に限った話ではありません。しかし、社内にロールモデルがいない・少ないという現状においては「どんな要件を備えた女性社員が、管理職として成功する可能性が高いのか?」という問いを立てることが必要で、アセスメントによる科学的なアプローチをとることが有効であると私は考えます。これについては、また改めて詳しくお話する機会を持ちたいと思います。

② 主体的な行動によって「憧れの存在」を発見する

組織が女性社員に対して求める要素を明確な指標で示す一方で、女性社員が個人として「あの人のような仕事をいつかやってみたい」「彼女のような働き方を実現したい」といった「憧れの存在」を持ちたいと思うのは、自然な感情ではないでしょうか。そのような存在を得ることで、モチベーションを高めたり、自分の可能性に気づくことができるのだと思います。

そもそも社内にそういった存在がなかなか見つからないのであれば、社内外にこだわらず、また女性・男性にこだわらず、幅広い人々と接点・交流を持つ機会を得ることは必要でしょう。組織の側としても、女性社員がこうした存在に出会うための行動を奨励すべきではないでしょうか。

実際、サイコム・ブレインズのクライアントの中には、次世代女性管理職育成プログラムの一環として、「社外に出て、ロールモデルを自分で探し、その人にインタビューする」という課題を取り入れている企業があります。企業側としては、社内の他部門や社外で活躍する人物と出会うチャンスを与える、あるいは社外の研修・セミナー等に派遣することが効果的です。

「ロールモデル不在論」で留まることなく、組織として可能な限り具体的な指標を設定する。そのために客観的・科学的な手法を取り入れる。本人に対しては、広く社外に目を向けさせる。そのような議論が今後より進むことを期待します。

  • 太田 由紀 Yuki Ota

    太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社 専務取締役

    一橋大学社会学部卒業。株式会社リクルートにて中小企業の新規顧客開拓営業、および求人広告媒体の編集制作を担当。キャリアや人生を自ら切り開き構築する人々とともに歩み、支援したいという思いから1986年ブレインズ株式会社を設立。2008年にサイコム・インターナショナルとの合併を経て同年より現職。同社の人事を統括するとともに、研修プログラムの開発に力を入れる。また、講師としても約1万人への研修実績を誇る。担当研修はリーダーシップ強化研修、意思決定力強化研修、ビジョン立案強化研修、OJT強化研修、キャリア開発研修、UPAビジネスコミュニケーションスキル研修、UPAネゴシエーションスキル研修、UPAコーチングスキル研修など。近年では管理職になったばかりの女性とその候補に対する「女性管理職育成講座」や、女性管理職を育成する立場にある男性上司に対する意識改革の研修を立ち上げ講師を務める。

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