COLUMN - Yosuke Yagi

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人知抄

2017.04.21

『クラウド時代の思考術 – Googleが教えてくれないただひとつのこと-』ウィリアム・パウンドストーン 著 / 森 夏樹 訳 (青土社 2017)

ダニング・クールガー効果という言葉を知っていますか?

1995年4月19日、身長168センチ、体重122キロのマッカーサー・ウィラーは、自分は監視カメラに映らないと信じ、真昼間に2つの銀行を襲った。ウィラーは、レモンジュースが「見えないインク」として使われているということを知っていて、自分の顔にレモンジュースを塗って顔を監視カメラにさらして犯行に及んでいた。

このことがコーネル大学のデビッド・ダニングの目にとまり、知識や技術に欠けた者は、自分が知識や技術を知らないことに全く自覚がないということを、同僚のジャスティン・クルーガーとともに、ダニング・クールガー効果と名付けた。

さて、世はインターネット全盛。ググればなんでも瞬時に知ることができる。そんな時代に自分の頭に知識を持つことにどれほどの意味があるのだろうか。

そのことに対して、著者のパウンドストーンは、無知がどれほど正確な判断や決断に影響を与えているか、デモクラシーがどれほど脆弱な大衆の知恵と判断に基礎を置いているか、そして、知識の多寡が個人の豊かさとどれほど相関しているかをこれでもかというほどの事例を示し、無知の危険を読むものに迫る。

とりわけ興味深いのは、第17章「キュレーションの知識」に「フォックス・ニュース」効果という節を設け、フォックス・ニュースはバランスのとれた報道をするのではなく、情報を選り好みして知りたいことしか知ろうとしない視聴者向けにニュースを流していると示唆していることだ。また、フォックス・ニュースの視聴者はその他のニュース・ソースの視聴者に比べて知識が少ないことも統計を示して明らかにしている。彼らは、自らの知らないことは知ろうともしないのだ。トランプ支持者の多くがフォックス・ニュースの視聴者であるということ、この本が書かれたのが2016年であることを考えると、著者自身は一言も大統領選挙について触れていないが、非常に示唆的である。

「広い知識の持ち主は、恐ろしくひどい決断をすることはまずない」し、「自分が知らないことを、はっきりと述べることができる。」そして、自分に欠けている知識をブラウザーに打ち込んで調べることができる。「頭の中にある幅広い知識は、クラウドを開く鍵」なのだ。広い知識がなければインターネットも「集合記憶」として活用することはできないのだ。

クラウド時代の思考に広い知識の必要性を謳いあげ、安易にクラウドに頼ることを戒めた良著だ。

(文:八木 洋介)

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