ATD国際会議ATD 2018 国際会議を振り返って

  • b! はてぶ

コラム

2018.05.16

西田 忠康
西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社
代表取締役社長

5月6日から4日間行われたATD (Association for Talent Development) の年次国際会議、International Conference & Expositionは、開催地がサンディエゴであることと、アメリカ前大統領のバラク・オバマ氏による講演が行われることもあって、過去最多の13,000人が参加しました。日本からも260名以上が参加したと聞いています。

まずはオバマ氏の講演について書きましょう。同氏が大勢の前で長時間話すのは退任後初めてだそうですが、自分や夫人が学びのおかげで自分の価値観と目的を見出すことができた、という話から始まったこの講演は、人材開発を責務とする聴衆を最大限に鼓舞するような素晴らしい内容でした。また同氏は、AIをはじめとするテクノロジーが破壊的な変革を起こしていく時代では誰もがよりagileになっていく必要があるものの、自分はcautiously optimisticであり、人が他人の立場を尊重し、誠実に社会に貢献しようと心がける限り必ずより良い未来が待っている、と語っていました。彼の講演は、今年のカンファレンスにかつてない特別な使命感を醸し出したといえるでしょう。

さて、このカンファレンスで催されるLearning & Developmentに関する300近くものセッションの背景には、オバマ氏の講演にあるようにAIのさらなる進展がもたらす社会と職場の変化がありました。4日間のセッションを振り返って、L&Dはどう変わっていくべきなのか、どんな動きに注目していくべきなのか、そして私たちは何を心がけていくべきかについて、サイコム・ブレインズの顧問であり、当社主催による現地勉強会のラーニングリーダーの八木洋介氏と、各企業からの参加メンバーによるレビューミーティングでの議論もふまえながらまとめてみました。

1. L&Dはどう変わっていくべきなのか?

AIやロボティクスが人の仕事をどのくらい代替するのかについては諸説あるものの、人の重要な役割は管理的あるいは分析的なものから、課題の設定、価値の定義、多様な要素を踏まえた意思決定、イノベーションの創出、動機づけやリーダーシップにシフトして行く、というのが共通認識です。したがってL&D部門のマネジャーやトレーナーは、それぞれの職場でどんなreskillingあるいはupskillingが必要なのかを定義し、人材への投資をマネジメントに働きかける必要があり、しかもそれは何が変化しているかに着目してagileに動くことが重要なのだと思います。

2. 何に注目すべきか?

カンファレンスではLearning & Developmentの具体的な施策を検討するうえで注目すべきテーマがいくつもありましたが、その中でも特に昨今めざましく進歩しているNeuroscienceとLearning Technologyについてご報告します。

Neuroscienceとタレントマネジメントの関わりについて、あるセッションではpurpose(目的)について論じていました。meaningful workとpurpose in lifeの連鎖が脳の化学物質の分泌を促し、仕事へのモチベーション、身体的健康、リスク耐性を高めるというものですが、ミレニアル世代が社会的意義や充実感を重視する傾向があることともつながっています。また、Diversity & Inclusionの文脈でしばしば論じられるunconscious bias (無意識の偏見) については、biasはもともと人間が脅威に対する防御本能として持っているものなので、研修を契機にbiasを再認識し新しいマインドセットを得ることでpsychological safetyを醸成することが解決策となる、と提唱していました。

Learning Technologyについては、昨年に引き続きマイクロ・ラーニングへの関心が高く、その関心の背景には、その都度具体的に手っ取り早く学びたい、逆にいえば長いコンテンツだとすぐに飽きてしまうミレニアル世代の学習スタイルに合っていること、職場で多忙感が高まっていること、YouTubeなどの豊富な映像コンテンツを取り込めること、そして学習者に応じたアダプティブな機能やコーチングとの連動ができることなどがあります。展示会場でも各社によるマイクロ・ラーニングのツール紹介で溢れていました。展示物だけを見ると現時点では特定の知識やスキルの習得を目的としたものが大半ですが、各セッションによる事例紹介や参加者とのディスカッションからわかるのは、行動変容の科学的アプローチや参加者間のインタラクションをベースとしたマイクロ・ラーニングの活用は、今後伸びていく分野であると感じました。

3. 何を心がけていくべきか?

AIやロボティクスの進展をより良い未来に導いていくために、L&Dに関わる私たちは、何が変化していくのかをきちんと理解したうえで、市場(顧客や社会)からの要請、社員の価値観、企業の戦略や課題解決に対応してreskillingあるいはupskillingを行っていく役割を担っています。

今回に限らずこのカンファレンスで学べることは、NeuroscienceであれLearning Technologyであれ、まだ発展途上の段階であっても目的のために役に立ちそうなことはまずトライしてみる、そしてその成果とまだ足りない点をこのような場で広く共有し、さらに挑戦していくというエネルギーだと思います。デザイン思考でいうプロトタイピング、テスト、レビューをHRやL&Dの領域でも進めていくことが重要で、こうしたことに取り組むスピードの速さが、強い米国企業と優れたタレントを生み出してきたのだと感じます。

ラーニングリーダーの八木さんは常々、「強い会社」と「良い会社」という対比で、米国企業は前者が強く、日本企業は「後者」を重視する傾向があると仰っていますが、今年のカンファレンスでは創業者の思い、社会的な使命、仕事の目的といった「良い会社」的な要素が強く打ち出されていました。会期中に毎日行ったレビューミーティングでは、Authentic Leadershipが何度か話題にあがりましたが、AIやロボティクスの進展で企業間の生産性の違いが薄まってくるなかで、仕事に目的や意義を求め、価値創造やイノベーションを志向するヒューマンな部分が、今後の成長のカギとなると強く思いました。

  • 西田 忠康 Tadayasu Nishida

    西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社
    代表取締役社長

    早稲田大学政治経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT) スローン経営大学院経営学修士。
    1985年、NTTに民営化1期生として入社。資金調達、IR、海外事業投資に携わる。1996年、自らのMBA留学での実体験を基に、膨大な費用と時間を費やさずに社会人がMBAの内容を学べる仕組みを作りたいという思いからサイコム・インターナショナル(現サイコム・ブレインズ)を設立。ハーバードのケースを英語で議論するスクールの開校を皮切りに、2003年にはMITスローン経営大学院と共同で技術系経営リーダー育成のためのMOTプログラムを創設。その後、アジア事業の中核人材育成のための事業拠点及び指導者のネットワーク作りに努力し、タイとインドネシアでは有力ビジネススクールとも提携。起業して20年を経過し、従来のグローバルな事業軸に加えて、ICTや教育ビッグデータの活用による企業教育の変革や、ダイバシティ・マネジメント支援等、人と組織に新たな成長空間を創るべく事業を展開。日本MIT会副会長。訳書にデボラ・アンコナ教授他著『分散型リーダーシップの実践 Xチーム』(ファーストプレス)。地理への興味に由来する旅行好きで仕事とプライベートを合わせれば40カ国以上を訪問。

この記事への、 ご意見・ご感想お待ちしております

コメントする

RELATED ARTICLES