イノベーションと新規事業の創造マイケル・クスマノ教授と語る「コーポレート・アントレプレナーシップ」

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座談会

2017.03.22

西田 忠康
西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社
代表取締役社長

人材の流動性、プラットフォーム戦略、オープンな組織
…日本企業にコーポレート・アントレプレナーシップは根づくのか?

  • 西田 忠康
    今日の皆さんの話をお聞きして思うのは、大きな組織の中でそれぞれの立場や役割はあるものの、そのような中でも「長期的な視点で会社の将来の事業を構想する」とか、「そのために自社の強みの本質的な部分をしっかりとふまえる」、あるいは「リスクをとって果敢にチャレンジする」といった人や組織のあり方が大事であって、そこにこそ「コーポレート・アントレプレナーシップ」があるのかなと。その部分において「日本企業は遅れている」というのは乱暴でしょうが、特に皆さんの会社のような大きな組織においては、どのような課題があると思いますか?
  • 豊嶋 哲也 氏
    個人的に思うのは、「失敗したら取り返しがつかない」という意識が、会社がどう考えているかは別として、社員の中では根強いのではないでしょうか。
  • 小山 正人 氏
    「ビジネスとして試せる場がない」と感じている研究者は多いかもしれません。研究所から何か提案して、それに対して「面白いね」という反応は得られても、いざ開発とかもう少し先の段階の話になると、「今の商売があるからもうちょっと待って」といわれてしまうこともあると思います。事業部としては今やっていることでお金が入っているのであれば、今のプロジェクトにかけているリソースを切り替えてでも試そう、ということにはなりにくいでしょうから。
  • 芳賀 恒之 氏
    いわゆる「死の谷」(研究・開発が事業化・実用化といった次の段階に発展しない状況)をいかに超えるか、ということですね。
  • 増田 佳正 氏
    私が欧米の人達とやりとりしていて感じるのは、今までの事業や新しい事業にどう投資して、どこへ進めばいいか、そういったことを説得するためにポートフォリオを作って議論することに長けています。日本人はまだそういう議論の仕方に馴染んでいないと思いますね。
  • マイケル A. クスマノ 氏
    大学の側からいうと、やはり企業と大学の関係性の弱さが課題ですね。今の時代は、基礎研究、応用研究、そして商売のギャップがだんだん小さくなっていて、だからこそ企業と大学との関係がすごく重要だと思います。そしてこれは日本の大学の構造的な問題ですが、日本の大学では年配の教授が一番お金を持っている。これはつまり、最新の知識を必ずしも持っていない人が一番力を持っているということ。アメリカだったら逆ですよ。一番お金をもらえる人は、一番進んだ研究をしている人。優秀な研究者をめぐる競争が激しいから、若い人にたくさんリソースを投入します。企業も共同研究をするために若い研究者と関係を作りたいから、そういう人たちにも投資をします。
  • 西田 忠康
    確かに、企業の研究者を大学が採用するとか、大学の研究者を企業が雇うとか、企業と大学の間で人材、特に若い人たちが行き来するというのは、日本ではあまり聞きませんね。
  • 豊嶋 哲也 氏
    なんとなくメンタリティとして内向的というか、「自社の中だけで、自分たちだけでできる範囲でやりましょう」みたいな空気は多かれ少なかれあるのかなと思います。そういう雰囲気は1年や2年で変わらないので、どんどん手を打っていかないと長期的には変わっていかないと思います。
  • 増田 佳正 氏
    私が関わっているデジタル・トランスフォーメーションの領域でいうと、欧米の場合は同じ業界の企業が集まってプラットフォームを立ち上げて、それがうまく回っているケースもあります。一方、日本の企業だと競合の会社や大学と手を組むというのがなかなか難しい。日本的な特徴というか、企業間のコミュニケーションの問題なのでしょうか?
  • マイケル A. クスマノ 氏
    コミュニケーションの問題というより、日本の場合はリードを取る会社が少ない。どこかの会社がリードを取らないと、互換性のないものを作ってしまうことになる。でも競争が激しいから、お互い協力し合うことなく、どの会社も自社だけのプラットフォームを作ってしまう。
  • 芳賀 恒之 氏
    技術の標準化って何のためにするのかというと、それはプラットフォームを作りたいから。アメリカの巨大企業の場合は、自分の会社の分で非常に大きな市場が形成できるので、標準化する必要はまったくなく、自分たちの好きな規格でやっていけばいい。それに対して、ヨーロッパはきっちり標準化して、「みんなでこの橋を渡っていきましょう」ということをネゴシエーションします。では日本はどっちで行くんですか?っていうときに、ネゴシエーションはそんなに上手くないし、だからといって自社だけでディファクトスタンダートを作れるほどのリソースはない。そこの闘い方は、やはり考えていかなければならないと思います。
  • 豊嶋 哲也 氏
    競合どうしの壁を越えて「ノンコンフィデンシャルな場を作りましょう」と言い出しっぺになる会社もなかなかいない。どうしても「そういう場ができたら呼んでください」という態度になってしまう。一緒になって闘うという文化ではないですよね。
  • 芳賀 恒之 氏
    たとえば日本でもDARPA※型の国家プロジェクトを進めようとして、プロジェクトリーダーに権限を集中させるべく、各企業に「エース級の人材を出してくれ」といっても、企業側は渋るわけですよね。自分のところで働いて欲しいから。「国のために働いてくれ」と言われても囲い込みたくなってしまう。でも研究者の側からすれば、声がかかれば行きたいと思うでしょうし、そういったプログラムに参加させることで、企業と企業、企業と大学の間で人材が循環する状況をつくることができる。私たちが解決すべき問題は、企業がそれぞれの利益の壁を超えて協業していくかたちをいかに作っていくかであると、強く思います。
  • ※DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency)
    アメリカ国防高等研究計画局。国防総省傘下の機関であるが、前身のARPA時代にインターネットの原型であるARPANETや全地球測位システムのGPSを開発するなど、社会を大きく変革するイノベーションの担い手として高い評価を得ている。
  • マイケル A. クスマノ 氏
    日本で企業どうしが協力し合う文化がまったくなかったわけではなくて、1960年代に日本のコンピュータ産業の育成のために複数のメーカーが技術提携をすすめた例もあります。ただ、それを主導したのは当時の通産省、つまり国家主導のプロジェクトだったのですが。今の時代は、グーグル、アマゾン、マイクロソフトといった会社が世界全体を市場にしてホリゾンタルな競争をしています。グローバルな競争の中で、大企業としてはそういうプラットフォームをドメインにしている会社が勝つのが今の世界なのだと思うのですが、日本の会社はそういった世界になかなか入れていない。でもこれからはそういう会社が出てこないと。
  • 豊嶋 哲也 氏
    今日のお話で素材・部材メーカーが構造的にすごく厳しい環境にあるということを、クスマノ教授から俯瞰的にいわれると、改めてそうだなと感じます。自分たちの強みを再点検して、自分自身をチェンジさせていく。あるいは自分たちがまだ認知できていない強みを発見して、新しいビジネスに展開できないかを模索する。大学や他の企業ともつながりを作る。厳しい環境の中でもそういったことにチャレンジしていきたいと思いました。クスマノ教授に「すごいね!」とおっしゃっていただけるくらいのことをやらなくてはいけませんね。
  • 西田 忠康 Tadayasu Nishida

    西田 忠康サイコム・ブレインズ株式会社
    代表取締役社長

    早稲田大学政治経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT) スローン経営大学院経営学修士。
    1985年、NTTに民営化1期生として入社。資金調達、IR、海外事業投資に携わる。1996年、自らのMBA留学での実体験を基に、膨大な費用と時間を費やさずに社会人がMBAの内容を学べる仕組みを作りたいという思いからサイコム・インターナショナル(現サイコム・ブレインズ)を設立。ハーバードのケースを英語で議論するスクールの開校を皮切りに、2003年にはMITスローン経営大学院と共同で技術系経営リーダー育成のためのMOTプログラムを創設。その後、アジア事業の中核人材育成のための事業拠点及び指導者のネットワーク作りに努力し、タイとインドネシアでは有力ビジネススクールとも提携。起業して20年を経過し、従来のグローバルな事業軸に加えて、ICTや教育ビッグデータの活用による企業教育の変革や、ダイバシティ・マネジメント支援等、人と組織に新たな成長空間を創るべく事業を展開。日本MIT会副会長。訳書にデボラ・アンコナ教授他著『分散型リーダーシップの実践 Xチーム』(ファーストプレス)。地理への興味に由来する旅行好きで仕事とプライベートを合わせれば40カ国以上を訪問。