- 鳥居 勝幸サイコム・ブレインズ株式会社 取締役会長

コラム
2016.11.14
研修で受講者から、「営業においてもっとも重要なことは何ですか?」と聞かれたら、私は「お客様に関心を持つことだ」とお答えします。「なんだそんなことか…聞くんじゃなかった」と言いたげな顔をされることには慣れていますが、それ以外に答えようがないのです。
私はこれまで、自身の書籍や新聞・雑誌で営業について随分と書いてきましたが、どのような知識・戦略・スキルも、根源的なこととして「お客様への関心」がないと役に立たず、営業という仕事の目的を果たすことができません。
「お客様に関心を持って喜ばせよう」という、ただそれだけのことを伝えるために活動している団体があります。それが私も関わっている「NPO法人ワクワク営業応援団」です。このNPOは、「日本の営業・接客をおもしろくてワクワクする仕事に」をスローガンに、メンバーたち(我々は「団員」と呼んでいます)がまるで旅芸人のように全国各地で「ワクワク営業セミナー」を開催しています。団員の本業はプロの研修講師やコンサルタントですが、NPOなのでこの活動は組織の利益拡大を目的としていません。
話はちょっとだけそれますが、落語家の笑福亭鶴笑さんが代表を務める「国境なき芸能団」というNPOがあります。このNPOは、ボランティアによる落語公演を、日本国内だけでなくブラジルやドミニカなど海外でも行っています。設立趣意書には「笑いに国境はありません。笑いはどんな怒り・憎しみ・恨みも溶解し、親近感と相互理解を深め平和な心を育みます」と書かれています。私はたまたまテレビで先の熊本地震の被災地でボランティア落語会を開催したときの特集番組を見たのですが、鶴笑さんはその中でこのように語っていました。
「こんなに喜んでもらえる、これや、これや!これをやりに芸人の道に入ったんかもしれへんなあ」
ワクワク営業応援団の団員も、それぞれが本業で活躍しながら、NPO活動の中では鶴笑さんと同じような感情を抱いているのではないでしょうか。社会貢献などと大上段に構える必要はないのでしょうが、各々の経済活動とは別に、何かで人を喜ばせる活動を併せ持つこと。それは自分の中に計算のないピュアな部分を持つということでしょう。これからのビジネスパーソンの一つのあり方かもしれません。
計算で動く営利活動と、ピュアな気持ちで動く非営利活動は、相反するものではないと思います。一人の人間の中にきちんとした意味を持って同居でき、その両者は何らかのシナジーを生み出し、トータルな意味での利益を拡大させる。そのようなビジネスモデルが、あちこちで草の根的に生まれる時代が来ているような気がします。
鳥居 勝幸Katsuyuki Toriiサイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー 取締役
⻄南学院⼤学商学部経営学科卒業。富⼠ゼロックス株式会社、株式会社リクルートを経て起業しブレインズを設⽴。2008年のサイコム・ブレインズ株式会社設⽴後、代表取締役 COO、取締役会長を歴任し、2021年7⽉より現職。マネジメント層への組織コンサルティングとリーダーシップ開発、営業組織改革と課題解決型営業力強化をライフワークとして手掛ける。研修・セミナーではこれまで250社/5万人以上の⼈材を育成、組織の収益改善に大きく貢献している。著書に『営業⼤全』『社⻑が意図した売上計画を完全達成する6つのツボ』(日本経営合理化協会出版局)、『そろそろ、しゃべるのをおやめなさい』(東京ファイナンシャルプランナーズ)、『営業の仕事が⾯⽩いほどわかる本』(中経出版) など。