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対談

2019.02.04

チェンジマネジメントの視点で読み解く、働き方改革とこれからのリーダーシップ ―電通国際情報サービス 今村優之氏 (前編)

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宮川 由紀子 Yukiko Miyakawa
宮川 由紀子 サイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント

働き方“改革”というからには、これは「チャレンジ」である

今村氏によるセッション
A Systematic Approach for Change Management: Lessons from a Japanese Company’s Challenge with HPI
  • 宮川 由紀子
    今回のATD Asia Pacificで、日本企業からは唯一のスピーカーとして登壇された今村さんですが、どのような内容のセッションだったのか、あらためて教えていただけますか?
  • 今村 優之
    テーマは働き方改革です。「HPI」というATDが推奨しているモデルを使ったチェンジマネジメントの事例として、自社の働き方改革の取り組みを発表しました。

    HPI (Human Performance Improvement)

    成果を高めるために、ただ研修を行うという発想ではなく、成果の成り立ちを明確にし、組織の資源を適切に組み合わせて、介入策を提案・実行し、ソリューションに導いていくためのプロセス。ATDでは、人材育成の全体像を捉え企画を検討していくプロセスとしてHPIを推奨している。(参考:『HPIの基本~業績向上に貢献する人材開発のためのヒューマン・パフォーマンス・インプルーブメント~』<ジョー・ウィルモア著・中原孝子訳/ヒューマンバリュー2011年>)



    働き方改革というのは日本独自のテーマで、海外でその話をすると、「日本には労働の法律があるのに、なんで働き方改革なんてやってるの?」みたいなことになりがちです。一方で「日本では少子高齢化によって労働力人口が不足してくる」「その中で国として生産性をもっと高めなければいけない」といったそもそもの話をしながら、「これはチェンジマネジメントなんです」というと、一瞬で理解してもらえるんですね。

    セッションでは「国がイニシアチブを取ってやっている取り組みを、企業は本当に理解しているのか?」という、私が参加しているATDジャパンのHPI委員会でも議論になっていることを提示しながら、我々の会社でも働き方改革の目的が組織の中できちんと伝わらずに失敗したことが何年も続いていたこと、そしてHPIの考え方を入れたことで徐々にうまくいき始めたことなどを発表しました。
  • 宮川 由紀子
    御社が働き方改革に取り組み始めたとき、組織としての課題はどのようなものだったのでしょうか?
  • 今村 優之
    我々はITを生業にしている会社ですから、常に最新鋭の会社だと見られたいですし、それが自分たちの価値になると思っているところがあります。しかし、働き方改革を推進しようという動きが世間にある中で、たとえば使っているITシステムや社内の制度が「イケてない」という意見が多くありました。また、なんとなく明るくて元気な社員が多いけど、それが価値につながっていないのか、一部の中途入社や新人・若手の社員からは「人間関係が希薄」「物足りない」といった意見もありました。それは人事だけでなく、いろいろな部署と話しても同じように感じていることがわかりました。なので「もっとイケてる会社になりたいよね」ということが、我々の働き方改革のベースにありました。

    また女性活躍推進法の施行を受けて、管理職になる手前の女性社員に対するヒアリングをしたときに、意外に多くの人が働きづらさを感じていて。「今はいいけど、将来を考えたときに働き続けることができるのか?」という、漠然とした不安を皆が持っていることが分かりました。
  • 宮川 由紀子
    働き方改革というと、「残業しないで早く帰る」とか、「有休の消化率を上げる」とか、そういう話になりがちですが、御社の場合は女性活躍推進、いわゆるダイバーシティ推進も働き方改革の中の課題としてあったのですね。
  • 今村 優之
    初年度の2015年にタスクフォースを立ち上げて、働き方改革の目的・キーワードとして「ワークライフバランス」を掲げました。ワークライフバランスは、仕事とプライベートそれぞれで相乗効果を生み出すような形にする、そのために時間を効率的に使いましょう、というのが本来の意味だと思います。しかし、このワークライフバランスという言葉が、どうも現場では「ゆるい働き方」を推奨していると誤解されたようで、「自分はもっと仕事をしたいので、プライベートのことに関して言われたくありません」みたいな反応もありました。そこで翌年は「生産性向上」というキーワードに変えて、職場での改善活動もやってみたのですが、これに関しても「つまらない」といった意見が多くありました。
  • 宮川 由紀子
    「つまらない」というのは、職場の改善活動がつまらない、ということですか?
  • 今村 優之
    要は、「生産性を向上しましょう!」と言われて、何かドライブされますか? 自分にとって何かいいことがありますか? ということだと思います。皆さん普段から生産性を上げようと仕事をしている中で、あえてそれを「上げよう」と言われる。「たとえば営業だったら、今まで7時間かけていた仕事を6時間でできるようになったら、そこに新しい予算が降ってくるのでは? それって楽しいんだっけ? どんどん仕事をやらされる状況が増長されるんじゃないの?」といった意見もありました。
  • 宮川 由紀子
    「生産性向上」と言うのは簡単ですが、確かによく考えてみれば、現場からしたら「もう既にこんなに頑張っているのに…」となりますよね。
  • 今村 優之
    生産性の向上とかダイバーシティというのは、どうしても何かとのトレードオフが必要なものとして捉えられてしまう言葉だと思うんです。「生産性を高めたいのであれば、個人の価値観を無視して突っ走ればいい」とか、「ダイバーシティを尊重して、それぞれが好きなように仕事をすると、業績が落ちるかもしれない」とか。でも、会社として長期的に成長していきたいというのは、会社も個人も株主も一致していることなので、そこで誰かが泣くような状況ではなく、皆がハッピーな状況を作りだすことが必要です。そしてそのためには、生産性の向上もダイバーシティの尊重も両立して取り組む、ということが我々にとっての大きなチャレンジであると。そのストーリーには、それまでとは違って理解して共感してくれる人も多くて。じゃあその方向でやってみよう、となったのが2017年のことでした。

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