新人・若手社員の育成「自分は何者か?」若手社員のキャリアと組織の課題
―『職場の問題地図』著者 沢渡あまね氏に聞く

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対談

2017.04.17

長尾 一哉
長尾 一哉サイコム・ブレインズ株式会社 ソリューションユニット コンサルタント

国内市場の縮小や経済のグローバル化が進展する中、「就職や転職を有利にするには、市場価値の高い人材にならなければ」という価値観は、学生や若手社員にとってますます強いものになっているのではないでしょうか。厳しい就職活動を勝ち抜いて入社した彼らは、本来キャリアに対する意識や、コミュニケーション能力も高いはず。その一方で、人事や現場の上司の評価は「元気がない」「自分で考えない」「報連相ができない」といったように、昔と比べてそれほど変化していません。配属先が希望通りにならず将来に不安を感じたり、忙しい上司との間でコミュニケーションが不足していることも、この評価の背景にあるでしょう。

若手社員が様々な課題を乗り越えてキャリアを築いていくためには、何が必要か。今回は、オフィスコミュニケーションや業務改善を領域とするコンサルタントであり、新人・若手社員のためのキャリアマネジメントなど、研修講師としても活動している沢渡あまね氏にお話を伺います。

プロセスやコミュニケーションをシンプルに…購買の仕事で学んだ業務改善

沢渡 あまね 氏
あまねキャリア工房 代表 / オフィスコミュニケーション改善士
1975年神奈川県生まれ(東京都品川区在住)。早稲田大学卒業。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社など16年のサラリーマン経験を経て、2014年秋より現業。IT購買部門、情報システム部門、広報部門などを経験。現在は企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っているほか、複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」「業務改善プロジェクト」のファシリテーター・アドバイザー、および新入社員・中堅社員・管理職の育成も行う。これまで指導した受講生は1,000名以上。主な著書に『職場の問題地図 ~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』(技術評論社)、『無理しないから無駄もない「草食系」社員のためのお手軽キャリアマネジメント』(日刊工業新聞社)など。
沢渡 あまね 氏
  • 長尾 一哉
    沢渡さんとは、とある交流会でお会いして、その後もときどき情報交換をさせていただいています。今日は「若手社員のキャリア形成」が大きなテーマなのですが、まずは沢渡さんの若手社員時代がどんな感じだったのか、沢渡さんのご紹介も兼ねてお伺いしたいです。
  • 沢渡 あまね氏
    キャリアのスタートは日産自動車で、最初に配属されたのは購買部門でした。購買といっても自動車を作る部品の調達ではなくて、会社を運営するためのシステムの購買を担当しました。たとえば人事システムとか、ヘルプデスクのためのシステムとか、そういうITシステムの開発や運用・保守を、外部のITベンダーから調達する仕事です。
  • 長尾 一哉
    購買部門への配属は、希望通りだったのでしょうか?
  • 沢渡 あまね氏
    いえ、たまたまですね。自動車業界を選んだのも、特にこれといった理由はなく、「目に見えるもの、形のあるものを作りたいから、やっぱりメーカー系かな?」くらいの認識でした。

    ちょうど日産がルノーの傘下に入った頃で、両社の間で共通の購買プロセスを作る必要があり、その中で業務を改善したり、業務自体を減らす、といったことを経験しました。新しいプロセスを作るとなると、ルノーだけじゃなくて、社内の顧客である情報システム部門とか、海外の現地法人とか、様々なステークホルダーとの調整が非常に大変でしたが、現在の私の仕事にもつながる経験を得ることができました。独立する前に16年間サラリーマンをしましたが、日産の後に転職したNTTデータ、そして日系の製薬会社でも購買の仕事をしています。
  • 長尾 一哉
    NTTデータに転職されたのは、どのようなお考えからなのでしょうか?
  • 沢渡 あまね氏
    情報システムの本流の会社で腕試しをしてみたいという思いがあったのと、たまたまタイミングよく購買担当者の募集があって。情報システムの世界って、今でいうとIoTとかロボティクスとか、常に時代の最先端に触れることができて面白いですよね。仕事をするうえでも、情報システム部門だけではなく、マーケティング部門、店舗、エンドユーザー…と関係者も多くて、いくらでも可能性を広げられる領域だと思います。そういう世界でプロジェクトをマネジメントしたりとか、もっと深く学んでみたいと思って転職をしました。
  • 長尾 一哉
    実際にどんなプロジェクトに関わったのですか?
  • 沢渡 あまね氏
    中国にオペレーションセンターを立ち上げる仕事に関わりました。最初は現地のパートナー選びということで、上司と一緒に1カ月かけて9都市20社を回るところから始めました。

    立ち上げた後は、日本と中国のオペレーションセンターとコールセンターのマネジメントを担当しました。NTTデータにいたのは5年ほどですが、海外とビジネスをするうえでどのように業務を設計すればよいのか、非常に勉強になりました。最近ダイバーシティとか多様性ってよくいわれますが、様々な背景を持った人たちと一緒に仕事をしていくためには、とにかくシンプルに物事を伝える、仕事のやり方もシンプルにしていく、共通化していくことが必要で、そのうえでそれぞれの人が「らしさ」を発揮できる。そういったことを身をもって経験できた5年間でしたね。
  • 長尾 一哉
    業務のプロセスやコミュニケーションをシンプルに分かりやすく…というのは、ご著書の『職場の問題地図』にも通底しているメッセージだと思います。沢渡さんの若手社員時代からの経験が、現在の活動にも活かされているわけですね。

自分は何者? 自分の価値って何? …会社や上司の見立てに賭けてみる

沢渡 あまね 氏
  • 長尾 一哉
    日産自動車、NTTデータ、そして製薬会社を経てコンサルタントとして独立されたわけですが、独立を決意したきっかけとしては、どういったことがあったのでしょうか?
  • 沢渡 あまね氏
    そもそも私は自分のキャリアについて、最初から購買がしたいとか、業務改善がしたいとか、明確に考えていたわけではありません。日産でたまたま購買に配属された。よく分からないけど広報へ異動になった。また購買の仕事がしたいなと思っていたときにNTTデータとご縁があった…という感じで、何か軸があって、その軸に向かってひたすらやる、というタイプではありませんでした。独立をしたのも、これまで経験してきたことの延長にあって、「一つの会社にとどまるのではなく、もっといろんな会社に対して業務を改善するお手伝いができれば」と思えたことが大きなきっかけですね。
  • 長尾 一哉
    特にやりたかった仕事ではないけど、会社からきっかけをもらって、とりあえずやってみた。その中で仕事の楽しさに気づいたり、知らなかった世界を学んだり、そういったことの積み重ねでキャリアを築いてきた…ということなのでしょうか?
  • 沢渡 あまね氏
    おっしゃる通りです。これは今回のテーマにおいて、すごく大事なことだと思います。学生や若手の段階で会社のこと、社会のこと、未来のことなんて分かりっこない。じゃあ、どうやってそれを知るのかというと、与えられた仕事やその中で出会う人たちから教えてもらうものなんですよね。私自身がそういう経験をしてきたので、「配属が希望通りにならくて、モチベーションが下がって、やらされ感しかないです」という若手の人を見ていると、すごくもったいないと感じます。

    学生や若手社員に見えている世界と、会社や上司が見ている世界は違います。当然、会社や上司が見てる世界のほうが広いので、その広い視野の中で「あなたの強みはコレだ!」「この仕事やってみない?」と考えてくれたことに、ひとつ賭けてみてもいい。会社を信じてみる価値ってあると思います。
  • 長尾 一哉
    配属や仕事のアサインにも何かしらの理由がある、ということですね。
  • 沢渡 あまね氏
    そうです。私はいろんな場で若手社員にこう質問します。「自分の価値って、誰が決めると思いますか?」って。答えは「自分」ではなく、自分以外の「他者」です。

    たとえば、若い男性向けに車を作りました。かっこいい広告宣伝を打ちました。でも、結果として若い女性に大ヒットしました。この場合は市場が、つまり若い女性がその車の価値を決めてくれたわけです。だから、まずは与えられた仕事をきちっとやってみる。それによって「あ、コイツはこの仕事向いてるな」と周囲が思ってくれたら、それは周りが見つけてくれた「あなたの価値」なんです。そこでいい加減な仕事をしてしまったら、「仕事を回せない人間」としか見られません。
  • 長尾 一哉
    ちょっと意地悪な質問なんですが、沢渡さんが日産時代に購買から広報に異動になったとき、すぐに「よし、やってみよう!」って、ポジティブに受け入れることができましたか? 購買と広報って、ずいぶんかけ離れているように思うのですが。
  • 沢渡 あまね氏
    正直に言うと、「なんで自分が?」と思いました。広報の中でも、正確にいうと海外マーケティング部門の社内広報の仕事で、海外部門や海外のグループ会社に日産ブランドを浸透させるというのがミッションでした。そこで社内報を書く仕事をしたり。購買の仕事とは畑違いなので、はじめは「嫌だな…」と思っていました。

    とはいえ「まあ、仕方ないか」という感じで、社内報を書くために、日曜日に大学の公開講座でエッセイを書くクラスに通ったりしながら、なんとか仕事をしていました。そうする内に、周りの人から「文章書くのが上手いね」「情報発信が上手いね」と言われるようになって。それこそ私の価値を見つけてくれたんです。そうなるとだんだんと仕事が楽しくなってきて、異動の時はあんなに嫌だったのに、今ではインターナルコミュニケーションとか、広報のコンサルティングをしたり、本も書いたりしているわけですから。面白いですよね。

本来の能力は高いはずなのに…「若手の問題」は「組織の問題」でもある

左:長尾氏。右:沢渡氏。
  • 長尾 一哉
    若手社員が「自分の価値」を周囲から見つけてもらうために、「与えられた仕事をまずはやってみる」というのはもちろんですが、同時に「周りの人とコミュニケーションを取る」ということも大切だと思います。仕事の進め方がわからない時は、誰かに聞かなければ何も始まりませんし、そもそも組織の中で「一人で黙々とやっていれば完結する仕事」なんて無いわけですから。

    一方で、新入社員や若手社員の中には、自分から発信するというか、普段の報連相も含めて周囲に働きかけることが上手くできずに悩んでいる人も多いと思います。特に今の職場はみんなが忙しく働いていて、上司や先輩に話しかけにくい…という環境の人も多いのではないでしょうか?
  • 沢渡 あまね氏
    そうですね。コミュニケーションの問題に関して、一番重要なのは、「場」である思います。「お互いを伝えあう場」あるいは「学んだこと、気づいたこと、改善したいことを一緒に話し合う場」。こうした場を組織の中でもっと作るべきだと思います。それは上司や先輩の役割かもしれませんが、若手社員どうしが集まって話し合う場を、自分たちで作ることだってできるはずです。

    「ウチの若手は、報連相ができてない」とか「自分の意見を言わない」と感じている方も多いと思います。でも、そもそも今の新人・若手社員って、私なんかの頃よりも論理的思考とかプレゼンテーションの能力が高くて、周りに対する気づかいもちゃんとできる人、多いと思いませんか?
  • 長尾 一哉
    確かにそうですね。学生時代からゼミでプレゼンする機会も多いでしょうし、就職活動だって、コミュニケーション能力が試される関門をいくつも突破して入社しています。入社してからも、ロジカルシンキングとか、フォロワーシップだとか、10年・20年前の若手、つまり上司が若手だった時代にはなかったような研修を受けています。
  • 沢渡 あまね氏
    そういう本来ポテンシャルの高い人たちが、それを発揮する場がない。自分を伝えるコミュニケーションの場がない。あるいは社内の研修で報連相のスキルを身につけても、実際に上司に報連相しに行ったら「忙しい」といって聞いてくれない。論理的に伝えたのに、上司が論理的にフィードバックできていない場合だって、大いにあると思います。
  • 長尾 一哉
    コミュニケーションの問題は、若手社員だけの問題ではなくて、組織の問題、会社や上司側の問題でもあるんですね。
  • 沢渡 あまね氏
    では、どうやって場を作るのかというと、本当に忙しいのであれば時間を決めてしまえばいい。週に1回、たとえば「金曜日の16時から1時間は、チームの報連相タイムにしましょう」と。面白いもので、場を作ることで伝えるのに慣れていって、コミュニケーションのスキルも上がっていきます。

    実際にそういう取り組みをしている会社を私は見てきましたが、最初はおとなしい人が、どんどん自分の意見を言うようになって、「○○さんにそんな得意分野があったなんて。だったらこの仕事やってみようよ」と、自分では気づかなかった価値を相手が見つけてくれるんです。
  • 長尾 一哉
    そいういうコミュニケーションがきっかけとなって、その後のキャリアの軸になったら、素晴らしいですよね。私自身、前職の会社に転職した当初は仕事が全然できなくて、相当苦労しました。でも、そのときの上司が私のいいところ、フットワークが軽いとか、数をこなせるとか、そういうところを認めてくれて。それによって自信がついて、仕事もだんだんとできるようになったことを思い出します。
  • 沢渡 あまね氏
    仕事に必要なコミュニケーションの場を作ることも重要ですが、キャリアを築くという意味ではタッチポイントというか、いろんな人との接点を作っていくことも大切だと思います。上司や先輩・同僚だけでなく、他部署や取引先の人も接点になります。自分で意識して接点を増やしていかないことには、「自分は何者か?」がわかりません。

    20代の内はとにかく接点を作る。どんどん自分を発信して、周りに価値を見つけてもらう。その中で本当にやりたいことが分かってくる。30代になったら、さらに経験を増やして、自分の価値をブラッシュアップしていく。その道のプロフェッショナルになる。私がそうであったように、周囲が見つけてくれた価値をベースにして築いていくキャリアというのもありだと思います。もちろん、これは受け身の姿勢ということではなく、価値を見つけてもらうために、自分から人とつながっていく。むしろ主体的なキャリア形成なんですよね。
  • 長尾 一哉
    そういった若手社員の主体的な働きかけと、その働きかけに応える会社や上司側の姿勢やコミュニケーションの場づくり、両方の観点から若手社員の育成やキャリア形成を考えていきたいですね。
左:沢渡氏。右:長尾氏。
  • 長尾 一哉 Kazuya Nagao

    長尾 一哉サイコム・ブレインズ株式会社 ソリューションユニット コンサルタント

    横浜国⽴⼤学経営学部卒業。卒業後、船井総合研究所に入所し、経営コンサルタントとして、メーカー、 飲⾷業等様々な顧客を担当。⼈材の質が企業の業績に多大な影響を与えることを実感する。その後、採⽤領域に興味を持ち、レジェンダ・コーポレーションに転職。採⽤コンサルタントとして、⼤企業を中⼼に、求める⼈物像の策定、選考プロセス設計といった設計段階から、会社説明会のプレゼンター、⾯接官指導等を実施。採⽤時だけでなく⼊社以降の⼈材育成を⽀援したいという思いが⾼まり、2014年、サイコム・ブレインズ株式会社入社。⼈材開発コンサルタントになる。現在は主に営業パーソンの業績向上⽀援を中⼼に⾏っている。また、今までの経験を⽣かして、若⼿社員の即戦⼒化、離職防⽌をテーマにした研修プログラムの開発に⼒を注いでいる。 岐阜県出身。趣味は国内旅行ですでに47都道府県を制覇。旅行先でご当地のマスコットキャラクターを買ってくるのが楽しみ。特技は数字の暗記と、読みにくい文字の解読。

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