グローバル人事/ナショナルスタッフの育成世界で勝つ、全員で勝つ「強くて良い会社」の条件
― 八木洋介氏に聞く、戦略・ビジョンのグローバルな共有と実行における経営と人事の役割(前編)

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対談

2018.02.14

宮下 洋子 Yoko Miyashita
宮下 洋子サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット マネジャー/シニアコンサルタント

これまで魅力的な製品やサービスによって高い利益を出していた企業が、持続的な成長を実現できない。新興企業に地位を奪われる。事業を手放す。――全世界を市場とした厳しい環境において、勝つ会社、負ける会社の違いはどこにあるのでしょうか。日系・外資系の両方で経営幹部・人事エキスパートを歴任した八木洋介氏にお話を伺います。

八木 洋介氏
八木 洋介氏
株式会社people first代表取締役/サイコム・ブレインズ株式会社顧問

1955年生まれ。1980年に京都大学 経済学部 卒業、1992年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MS取得。1980年に日本鋼管株式会社(現JFEスチール株式会社)入社。1996年から1998年までNational Steel Corporationに出向(CEO補佐)。1999年に GE横河メディカルシステム株式会社入社。2002年から2004年までGE Medical Systems Asia、2005年から2008年までGE Money Asia、2009年から2012年までGE Japanにて責任者として人事などを担当。2002年より日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役。2012年 株式会社住生活グループ(現 株式会社LIXILグループ )執行役副社長 人事・総務担当。2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役(現任)。2017年株式会社ICMG取締役 及び 株式会社 IWNC 代表取締役会長(現任)。経済同友会幹事 新産業革命と規制・法制改革委員会副委員長。著書に「戦略人事のビジョン」。

日本企業の「空気感×継続性」の経営は、グローバルでは通用しない

  • 宮下 洋子
    今回、八木さんとお話したいこと。それは「日本企業が世界で勝つための、ビジョンや戦略の浸透のあり方」です。

    私の問題意識としては、たとえば中期経営計画をレビューするときに、海外での事業戦略がうまくいっていない理由を、「為替が変動した」とか、「想定外の事態が発生した」といった環境要因に求めている節があるな…と常々感じていて。世界各国に進出して現地法人が成熟している企業であっても、いまだにそういったことが失敗の要因として語られていることに違和感を覚えます。

    もちろん失敗の要因は色々あると思うのですが、今回は経営における人と組織の問題、特にビジョンや戦略のグローバルでの共有や実行という観点から、日本企業の課題を浮き彫りにしたいと思います。
  • 八木 洋介
    いきなり脱線しますけど、日本企業がグローバルで成功しないのは当たり前です。そもそも「グローバルでやっていくんだ!」と言いながら、トップも幹部も英語ができない。事業において成功するには、ビジョン、ミッション、戦略があって、それを伝える必要がある。その先に実行がある。

    「伝える」ということがグローバルではものすごく重要なんです。それなのに通訳がいないと伝えることもできない。グローバル化を推進するために、やらなきゃいけないことがいくつもある中で、一番簡単なのが英語。英語でコミュニケーションする努力をしないでグローバル化しようというのはおかしいでしょう?
  • 宮下 洋子
    確かに、トップの英語力の不足はよく指摘されていることですね。
  • 八木 洋介
    そもそも、日本国内でも「自分でメッセージを書く」とか「自分でプレゼンテーションのマテリアルを作る」といったことをやっていない。もちろん立派な経営者の方はいますが、日本語ですら自作のコンテンツを話さない人が、実は結構たくさんいらっしゃって。

    やりたいことがあるからコミュニケーションするわけです。そのやりたいことが、まさにビジョンです。トップがビジョンを自分の言葉で語ることをしないで、人が書いたものを読んでいたのでは、グローバル化は難しい。
  • 宮下 洋子
    ビジョンの共有といったときに、日本企業でよくお聞きするのは「専門の部署が作った冊子を各国語に翻訳する」とか、「その冊子を現地法人にばらまいて、トップの方が通訳付きで行脚する」といったケースです。まさに八木さんがおっしゃった通り、人が書いたものを読んでいる。「作る人」と「その通りしゃべる人」みたいな形に終始していることが多ですね。
  • 八木 洋介
    ビジョンというのは、トップから順にカスケードダウンしていくものです。「ビジョンをみんなで作りましょう」というのは、私にとっては「?」なんです。もちろん社員に意見を聞くことは構わないけど、ビジョンはトップにとって「俺のもの・私のもの」でないとうまくいきません。トップがそのビジョンを体現していなかったら、誰もやらないですよ。強い思い、強いビジョンがないのなら、またそれを本域に浸透させる気がないのなら、ビジョンなんて作らない方がましです。
  • 宮下 洋子
    私がクライアントと接していて感じるのは、ナショナルスタッフ、特にM&Aで新たに会社にジョインした側としては「この人たちはどんな価値観を持っているのか?」とか、「どんなことをしていきたいと考えているんだろう?」といったように、「ビジョン、ミッション、バリューを是非教えて欲しい」というニーズが強い。一方、日本の本社の側は、これまでは日本国内で同じような価値観がなんとなく共有されてきたせいか、「ビジョンを浸透したい」とか「知りたい」というニーズは、正直それほど強くないという印象です。
  • 八木 洋介
    それは、日本の多くが「空気感の経営」をしてきたからです。物事をはっきり決めないで、雰囲気で進んでしまう。そして継続性を重視する。前任者を踏襲するとか、ビジョンも前のものを引き継いでいく。そういう感じだと「わかってるだろ、お前?」みたいな感じになってくるわけで。でも、海外では「前と同じことをやっていたら勝てないでしょう?」「どうやってこの激しい競争の中を勝ち進んでいくの?」と思う人がほとんどなんです。今は全部がつながった世界で、どれだけ早く動いて、どれだけ新しい価値が出せるかということが勝負なってくる。単純な継続性では勝てない。

    加えてグローバルというのは、一言でいうとダイバーシティなんです。ダイバーシティだからこそ、放っておいたらバラバラになる。海外の人たちはそれをすごく感じながら生きている。特にアメリカなんて、国の中でもいろんな違いがあるわけで。それを一つのチームとして勝っていくためには、必ずビジョンが必要です。