対談

2018.02.20

世界で勝つ、全員で勝つ「強くて良い会社」の条件 ― 八木洋介氏に聞く、 戦略・ビジョンのグローバルな共有と実行における経営と人事の役割(後編)

  • b! はてぶ
宮下 洋子 Yoko Miyashita
宮下 洋子 サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット コンサルタント

差別化の源泉は、何よりも「人」…人事の本質的な役割とは?

  • 宮下 洋子
    世界の全メンバーがOne Teamとなって勝ち抜く。まさにこれは人の問題ですので、人事が果たすべき役割は非常に大きいと思います。
  • 八木 洋介
    その通りです。だから人事はトップのビジョンを心から信じること。そしてCxOから始まってマネージャーと名前のつく人たちが、社員に対してちゃんとビジョンを語っているかを常にモニターするくらいの気持ちが大事です。

    一方で、マネージャーにはコミュニケーションが上手な人と下手な人がいる。その点、人事は基本的に人を扱う人たちであって、人に対するコミュニケーションの力がある人でないといけない。人事の役割というのは、マネージャーだけでは足りないところを、もっとわかりやすく、シンプルに、一貫性があって、心が踊るような形でコミュニケートすることだと思う。
  • 宮下 洋子
    そうなると、それぞれのビジネスの現場でそういうことができる人事が必要なわけですね。
  • 八木 洋介
    それがいわゆるビジネスパートナーですよ。ビジネスパートナーというと、「ビジネスリーダーを、事業部長をサポートします」みたいに思われているけど、そうじゃない。部門の人たちの悩みを聞いて解決してあげたり、その人たちが知らないことを知らせてあげたり。部門の活力を最大化する、最高のパフォーマンスを出すために何ができるかを考えて行動するのが役割です。
  • 宮下 洋子
    そういう意味では、いわゆるヘッドクオーターの人事、グローバル人事と呼ばれるような統括的なポジションの方が、各部門・各地域でそういう人事がいるか、育っているかを把握して、いないのであればいる状態にしなければなりませんね。
  • 八木 洋介
    そういう役割も非常に大きいですね。一方で、それぞれでバラバラにやらせるのではなく、確実なものにするには当然横串が必要になってくる。ただし数はいらないです。LIXILでいうと全世界で8人くらいでやっていました。
  • 宮下 洋子
    その8人で、各国の人事のアクションをモニタリングしたり、お互いに干渉して必要な時はサポートする…ということですか?
  • 八木 洋介
    全体としての戦略性とか、コンペンセーションポリシー、人材育成のポリシーはどうあるべきか、7~8人がそれぞれの部門の人事のトップの人たちとミーティングをする。モニターしていたのは僕だけ。それで十分ですよ。
  • 宮下 洋子
    実際にLIXILやGEにおいて、ビジョンや戦略を全世界にシェアするための施策とは、どのようなものだったのでしょうか?
  • 八木 洋介
    これはビジョンの話ではないけど、LIXILでバリューを新しく作ったときに、全世界でモジュール化したセッションをしました。GEでもイメルトがCEOになってすぐの頃、新しいバリューを作って、全世界でスモールグループによるセッションをしました。

    そこでは「新しいバリューはこうです。皆わかったね。おしまい!」ではなくて。「これってどういう意味なんだ?」「このバリューを大切にして仕事をしたら、自分たちが今抱えている仕事の問題点は解決するのか?」といったことを、徹底的に議論してもらいました。世界中、全社員で。
  • 宮下 洋子
    全社員ということは、一般職の方もということですか?
  • 八木 洋介
    もちろん全社員です。幹部だけでやったってだめですよ。ビジョン、ミッション、バリューは全員のためのものでしょう? 幹部のためのビジョンじゃない。全員が一つの方向を向くことによって、ベクトルが強くなるんですよ。上の方は確かに権限は持っているかもしれないけど、全体の10パーセントもいない。残りの90パーセントがあさっての方向を向いていたら、会社なんて強くなるわけがないです。だから全員です。簡単なことなんです。
  • 宮下 洋子
    簡単…なんでしょうか?
  • 八木 洋介
    マネジメントのポジションについてる人って、いい会社はだいたい2割です。なんで2割かっていうと、僕には組織論があって、「1×20×10×(6のX乗)」であると。

    社長は20名の部下を持て。社長のダイレクトレポートは最低10人。それ以外のマネージャーという名前がつく人は6人の部下、さらにその下には6人…。そうするとマネージャーがだいたい17~18%になる。ちなみにGEの社員数は30万人なので、CEOを除いて6階層。コミュニケーションを6階層下げていくだけですよ。1万人の会社だったら1700人にセッションをすればいい。簡単でしょう?
  • 宮下 洋子
    なるほど。ワークショップの参加者に対して、「絶対にこれを部下と話しなさい」とアサインメントを与えるんですね。それを人事がチェックして、意図する効果が出ているかをモニタリングする。
  • 八木 洋介
    そうです。人事はだいたい社員100人に一人といわれているけど、人事の3分の1くらいはCoEをやってるので、だいたい150人に1人いるというのが望ましい。そうすると1人の人事が150人の面倒を見ればいいだけです。15人のセッションだったら10回やればいい。150人のセッション一発でやろうと思ったら、1回ですよ。日本に5万人いる会社であれば、東京ドームに社員を集めて社長がマウンドに上がって「俺はこうするんだ」と話をすれば、それだけでも結構変わると思います。
  • 宮下 洋子
    日本の人事の方は真面目な方が多いので、相手が海外となると「何を伝えるべきか?」とか「どうしたら本当に腹落ちしてくれるか?」と悩んでしまいそうです。でも、コミュニケーションの悩みというのは、日本人どうしでもあることです。結局は人事の本質的な役割というものに立ち返って、自分が心から信じていることを愚直に伝え続けるということなんでしょうね。
  • 八木 洋介
    たとえば自分の子どもに対して、分析に分析を重ねてコーチングのガイドラインなんて作りますか?「お前にはこうして欲しいんだ」と言うのは、その子に成長して欲しいからですよ。会社もそれと同じです。いい会社にしたいとか、部下に育って欲しければ、ガイドラインがどうとか、四の五の言う前にとにかくコミュニケートしましょうよ。
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