コラム

2016.08.05

反転学習モデル導入のメリットとマイクロラーニングの活用

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川⼝ 泰司 Yasushi Kawaguchi
川⼝ 泰司 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員
反転学習モデル導入のメリットとマイクロラーニングの活用

昨今、映像教材やICTを活用した新しい教育手法・学習スタイルへの関心が高まっています。弊社 教育ビッグデータ事業推進本部長の川口が、日々進化する学習のカタチをご紹介する連載企画。今回は、近年企業内教育への導入が進む「反転学習」について、あらためてこの手法がもたらすメリット、そしてビジネスパーソンに適したオンライン学習の設計ポイントをご紹介します。

ブレンディッド・ラーニングの盛衰

21世紀初頭にeラーニングの手法が確立されて以来、「ブレンディング」あるいは「ブレンディッド・ラーニング」という呼び名で、オンライン学習と集合研修を組み合わせたカリキュラムへの挑戦が繰り返されてきました。

ブレンディングは、技能訓練の領域では実効性のある手法として定着しましたが、マネジメント教育などヒューマンスキル開発の領域では、集合研修を重視する従来の考え方を覆すには至らず、バズワード的に扱われて一過性のブームになってしまった感があります。ヒューマンスキル開発の領域でブレンディングが市民権を得られなかった原因としては、eラーニングの使い勝手の悪さや開発にかかるコストの問題、そもそも論として技能訓練ほど実効性の高いプログラム開発ができなかったこと、オンライン学習と集合研修の組み合わせに対する効果を疑問視する風潮があったこと、などが考えられます。

ところが、近年企業研修において話題にのぼることが多い「反転学習」は、ブレンディングの一形態でありながら急速な勢いで導入が進んでいます。急速に普及している要因のひとつに、ネットワークやスマートデバイスの進化が挙げられます。特にスマートフォンはここ数年で利用者が激増し、Webの世界ではPCよりもモバイル向けサービスを優先して開発する「モバイルファースト」の考え方が主流となっています。この動きはオンライン学習の領域にも波及し、学習行動がモバイルを中心に変化し始めました。

また企業側においても、教育内容の多様化、対象層の拡大、費用対効果に対する厳しい見方など、教育研修に対する考え方が変質してきており、オンライン学習を積極的に取り入れようという機運が生まれています。このことも反転学習が注目されている要因のひとつになっていると考えられます。

コストだけじゃない、反転学習の本質的な意義

あらためて反転学習を企業研修に取り入れることのメリットは何でしょうか?

実際に企業の声を聞くと「研修に関わる費用の抑制、特に交通費や宿泊費の削減」という話がよく出てきます。確かにオンライン学習に知識のインプット部分を委ねることにより、集合研修にかける日数や時間を削減することは可能です。しかし、これは反転学習の導入メリットのひとつに過ぎず、本来の意義は別のところにあります。ここで学校教育から導入が始まった反転学習モデルの意義をあらためて整理しておきましょう。

反転学習モデルの意義
  • 伝統的な学校教育では、教師は「教える人」、生徒は「受動的に教わる人」であった。反転学習モデルの導入により、生徒は「自律的に学習する人」、教師は「学習を支援する人」へと立ち位置が変化する。
  • 教室での一斉授業では、生徒の理解力の差により知識の定着度に濃淡が生じがちであった。これを自宅でのビデオ学習に切り替えることで、理解の遅い生徒でも繰り返し学習をすることで習熟度を上げることが可能となり、生徒間の能力格差を小さくすることができる。
  • 宿題(課題)への取り組みの場を自宅から教室に移すことにより、生徒は疑問点の解消において教師から直接サポートを受けることが可能になる。結果的に従来の教育手法に比べ、生徒一人ひとりが深い学びを得ることになる。
  • 別の言い方をすると、従来が集団一斉教育であったのに対し、反転学習モデルは個別指導型の個人教育である。
伝統的手法:(教室)先生が全員に同時に教える。理解度に差が生まれる。→(自宅)宿題に取り組む。理解不足だと解決手段なし。/ 反復学習モデル:(教室)課題や演習に取り組む。理解度を見ながら個別指導。←(自宅)ビデオで学習。自分のペースで理解できるまで何度も学習。
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学校教育とは異なる工夫や手法が必要

企業研修は学校教育と違い、圧倒的に短期間で実施されるものです。よって反転学習の導入においては、学校教育とは異なるさまざまな工夫が必要です。ここからは、反転学習モデルを企業研修に適用する際のいくつかの手法を見ていきましょう。

まずオンライン学習についてですが、企業研修におけるレクチャー部分をコンテンツ化してオンライン学習に供する場合、最も手っ取り早くかつ高い効果を生むのは「研修講師本人による講義映像」です。これはリアルに集合研修の一部を切り出しているのと同じことになり、受講者にとって最も違和感を生じないやり方と言えます。この「講師本人映像」を見ることを研修の始点とすることにより、受講者は自然と「研修モード」に入ることができます。実際に導入した企業の受講者からは、「この先生から直接指導を受けられる集合研修の日が楽しみになった」という声が多く寄せられています。

企業研修で人気の小林敬明講師による「イノベーション戦略」のレクチャー(サンプル映像はこちら)

エビングハウスの忘却曲線 → スペーシング効果により記憶定着
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次に講義映像の構成ですが、ここでは「マイクロラーニング」の考え方を導入するのが効果的です。マイクロラーニングとは、5分から10分程度の短い単位で学習することを言いますが、この場合のコンテンツの作り方の原則は、「一話完結型」にすることです。「10分で一つのことを学ぶ」というイメージです。マイクロラーニングにより、学習者の負担を軽減すると同時に、スマートフォンやタブレット等のモバイル端末を使い隙間時間を利用して学習できるなど、忙しいビジネスパーソンのライフスタイルに適した学習を提供することが可能となります。

なお、マイクロラーニングの実効性を裏付ける理論として「スペーシング効果」というものがあります。これは「人の記憶の定着に関するメカニズムにおいて、繰り返し学習が記憶の定着に寄与する」という実験結果に基づいたものです。このことから「毎日少しずつ学習することの効果」が証明されており、マイクロラーニングを具現化する教材は知識の習得に有用であるということになります。

企業研修における反転学習モデルの導入には、受講者の利便性に加えてワークスタイル、ライフスタイルに適合した学習教材の提供が必須であり、そうしたことからもマイクロラーニングの導入は有効となります。また集合研修と組み合わせて効果を高めるためにも、オンライン学習による知識の定着は、受講者間でばらつき抑えつつ一定以上の水準で行う必要があり、
この点もマイクロラーニングが重要視される理由となっています。

次回は集合研修や習熟度テストなど、オンライン学習以外の要素も取り上げながら、反転学習プログラムの全体設計に必要な考え方をご紹介します。

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