コラム

2017.02.20

プレイングマネジャーの力量について

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小西 功二 Koji Konishi
小西 功二 サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター
プレイングマネジャーの力量について

皆さまこんにちは。今回は「プレイングマネジャーの力量」について考えてみたいと思います。当社のクライアント企業においても、プレイングマネジャーはもはや珍しい存在ではありません。かく言う私もプレイングマネジャーです。プレイングマネジャーはどうあるべきか、自戒を込めて私見を述べたいと思います。

なぜ今、プレイングマネジャーなのか?

このコラムでは、プレイングマネジャーを「現場の実務に直接携わりつつ、チームのパフォーマンスの最大化に責任を負っている者」と定義します。営業部門で言えば、直接顧客を担当し、個人の目標数字を持ちつつ、チーム全体の数字にも責任を負っている、という立場になります。

プレイングマネジャーが必要とされる理由や背景は様々にあろうと思われますが、「効率」「効果」そして「スピード」の3点で整理したいと思います。

第一に「効率」とは、人件費の抑制です。競争が激化し、人的リソースに余裕がない中、苦肉の策として生まれてきたという側面は否めませんが、もう一つ背景にあるのが、ICTの進化です。Eメールやテレビ会議など、ICTを活用したコミュニケーションツールによって、「実務を回しつつ部下も管理できるでしょう」という発想です。

第二に「効果」とは、成果向上への期待です。現場の実務をよく理解している者が、日々起こる問題を解決し、また部下の指導・支援にも力を発揮するという期待があります。その背景には、目まぐるしい事業環境の変化があります。つまり、現場の知見があっという間に陳腐化するため、「常に現場に携わっている者でないと適切にマネジメントができない」という事情があるのではないでしょうか。

そして最後は「スピード」への対応です。部長の下に課長がいて、さらにその下に係長がいるような重層的な組織よりも、フラットな組織の方がスピーディかつフレキシブルに問題に対処できます。とりわけ変化が激しい事業環境の中にあっては、なおのことでしょう。

プレイヤーか?マネジャーか?…プレイングマネジャーのあるべき姿とは?

プレイングマネジャーであれば誰しも、プレイヤー寄りで仕事を回すべきか、マネジャー寄りで仕事を回すべきか、一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。

しかしながら、プレイングマネジャーのミッションを「(自分を含めた)チーム全体のパフォーマンスの最大化」と捉えると、プレイヤー寄りか、マネジャー寄りかという問いはあまり意味を持たないように思います。つまり、状況によってプレイヤーとしての動きが期待されることもあれば、マネジャーとしての指導力が問われることもあり得るのです。聞こえは悪いですが、組織にとってプレイングマネジャーの存在意義は、「都合の良い存在」であることではないでしょうか。固定的なバランス配分を考えた瞬間に、プレイングマネジャーとしての存在意義は失われるでしょう。

しかしながら、「言うは易し、行うは難し」です。往々にしてあるのは、「マネジメントに割く時間がない」ということではないでしょうか。目の前の実務をおろそかにして管理業務に熱中するわけにはいかないという悩みはわかります。では、専任マネジャーに比して、プレイングマネジャーのあるべきマネジメントスタイルとは、どのようなものでしょうか? 私が考える「プレイングマネジャーに必要な考え方とスキル」を、以下の3点で整理してみました。

プレイングに逃げない

第一に「プレイングに逃げない」ことです。一般的にプレイングマネジャーはプレイヤーとして優秀です。それゆえ個人業績をもってチームの業績を底上げしようと考えがちですが、チームの規模が大きくなればなるほど無理が生じます。そもそも会社の期待はそこにありません。

会社が期待するのは、「業績を上げるやり方を他のメンバーに移植して欲しい」ということではないでしょうか。そうだとすると、自らのノウハウ(暗黙知)を、理論化・体系化・言語化(形式知化)し、常にメンバーに伝え続けることが必要です。抽象化と具体化を行ったり来たりしながら、よりわかりやすい、伝わりやすい言葉を模索する作業が求められます。そのように考えると、プレイングマネジャーにコンセプチュアルスキルやロジカルシンキングは必須スキルでしょう。

プレイングとマネジメントを切り分けない

第二に「プレイングとマネジメントを切り分けない」ことです。プレイングマネジャーが一般化してきた背景を改めて鑑みると、求められるのは「現場の問題に対して、直接的かつ柔軟なアプローチを、スピーディに実行する」ということでしょう。

これを実践していくには、現場・現物・現実を重視する「三現主義」に基づいて、先に指摘したメンバーの育成も同時並行で行っていく必要があります。つまり、日々の問題解決と、ある程度の時間がかかる人材育成を一体的に実行していくという考え方です。「人材育成には手間暇がかかる、それこそ時間が足りない」というご指摘を受けそうですが、ここで営業部門を例にとって、解決のためのテクニックをお示します。

メンバーの顧客に同行訪問するのではなく、プレイングマネジャー自身の顧客に適宜メンバーを同行させ、問題解決に当たらせるという逆転の発想です。プレイヤーとしての時間を犠牲にすることなく、問題解決の具体的な手法をメンバーに学ばせます。メンバーはそこで学んだアプローチを持ち帰り、自身の顧客で実践していくのです。もちろん、どのメンバーにどの問題解決に当たらせるか、プレイングマネジャーの判断力が求められます。メンバーの成熟度と問題の難易度を的確に見極める必要があるからです。また顧客の問題解決に当たらせる際には、短時間かつ明瞭なティーチングのスキルが求められます。メンバーの行動を強化または修正するための、フィードバックのスキルも重要でしょう。

長期の視点を見失わない

第三に、「長期の視点を見失わない」ことです。メンバーが日々抱える個別で具体的な問題の解決には、メンバー自身をもって当たらせる。この実践には、問題解決アプローチの原理原則を植え付ける必要があります。いかなる問題が生じようとも、その問題の本質を見極め、適切な対処を行うための「ブレない判断基準」を浸透させる必要があります。では、ブレない判断基準はどこから生まれてくるのでしょうか。

それは言うまでもなく、「長期的な視点」です。チームのビジョンです。チームのビジョンを作るのは、マネジャーの仕事です。チームで共有される長期の視点が、メンバー個々人の判断基準を明確にし、自律型人材を育成していくのだと考えます。ここでは「長期の視点は何か?」を個々のメンバーに問い続ける、コーチングのアプローチが有効です。個人的な経験でいえば、こうしたアプローチは、直接の対話を通して行うことと、メンバーの納得が得られる(個人の視点とチームの視点が背反しない)までは決して時間を惜しまない姿勢が重要です。

プレイングマネジャー自身にも、長期の視点は重要です。長期の視点がなければ、目の前に次々と現れる問題に対して、影響度や重要度に関係なく手あたりしだい着手することになります。これは先に述べた、「プレイングに逃げる」という罠に陥った状態です。長期の視点とそこから生まれる判断基準に基づいて、日々のタスクをプランニングしていくことが必要です。状況変化に応じた優先順位の組み替えも同様です。

固定観念を捨て去る…プレイングマネジャーの最大の挑戦

今回述べてきたことをまとめると、要するに我々プレイングマネジャーは、「固定観念を捨て去る」という挑戦が求められているのです。「目先の成果創出と骨太の人材育成は両立しない」という固定観念。「目の前の自身の実務を回しながら、チーム全体の生産性向上を成し遂げることはできない」という固定観念。この難題を解いていくのが、プレイングマネジャーの力量ではないでしょうか。

次回をもって、私のコラム連載は一旦終わりとさせていただきます。最終回は「人材育成の近未来」について、皆さまと考えたいと思います。

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