対談

2018.02.27

個と組織の両面から考える、ミドル世代のキャリアと学び ― 電通 酒井章氏

  • b! はてぶ
勝 幹子 Mikiko Katsu
勝 幹子 サイコム・ブレインズ株式会社
執行役員 / シニアコンサルタント

組織への「過剰適応」から「大人の関係」へ

酒井 章 氏
  • 勝 幹子
    仕事上の悩み、あるいはキャリアに対する迷いからくる孤独感というのは、どの年代にも多かれ少なかれあると思います。ミドルならではの孤独感があるとしたら、どのようなことが考えられますか?
  • 酒井 章
    ミドルといっても40代と50代では全然違うと思いますが、キャリアの面である意味一番つらいのは、40代だと思います。転職して会社を移るにもギリギリの年齢。「職業人」としての自分だけにフォーカスしていた人にも家族ができる。これから先の人生をどのように過ごしたらよいのか? 個人面談をしていると、40歳を境に4~5年のほとんどの人はモヤモヤしています。
  • 勝 幹子
    職業人として頑張ってきた分、会社の環境や文化に過剰に適応してしまっている面もあると思います。だから副業やパラレルキャリアという新しい働き方が目の前に提示されても、自分はどうするべきか、会社の外へ一歩踏み出だすべきか、というところで躊躇してしまう。そんなモヤモヤもあるのではないでしょうか?
  • 酒井 章
    だからこそミドルになってから考えるのではなく、新入社員のときからキャリアに対する意識を持ってもらうことが重要です。会社と社員の関係って、これまでは言ってみれば「親子」だった。でも本来は「大人どうしの関係」であるべきなんです。

    組織への過剰適応というのは、会社が社員に対してそのようにさせているわけです。その結果、会社の中でしか通用しない、市場価値のない人材が生まれてしまいます。「会社を辞めても生きていける人材を育てていく」というメッセージを発して制度化する、育成のシステムを作ることが必要だと思います。
  • 勝 幹子
    確かにそうですね。たとえば部長研修をするといったときに、「これからはイノベーションが重要だから、クリエイティブであれ、やんちゃであれ!」みたいな要件がトップから出てくる。やんちゃをしないように育てられてきたのに、40歳・50歳になってそんなことをいわれても、困りますよね。その点、御社は多才な方がたくさんいらっしゃって、しかもそれが受け入れられる文化があると思うのですが?
  • 酒井 章
    たとえば3年前にあるきっかけで写真を始めた社員の作品が、雑誌のグラフィックスに正式に採用されて。役員あたりは「すごいね!」と言ってくれるけど、現場では「あなたが撮影に行っている間、周りが仕事をサポートして迷惑しているんだ」という空気もあります。だからどんなにユニークな人材がいたとしても、受け入れる度量が組織になければ、つまはじき者にされたり、辞めていくリスクもあると思います。
  • 勝 幹子
    パラレルキャリアをはじめとする多様な働き方が注目される一方で、人手不足も深刻化しています。そうなると「優秀な社員を囲い込みたい」「自社の中だけで働いて欲しい」みたいな、多様な働き方とは逆行する考えに囚われてしまいそうです。

    そのような中で、なかなか変われない企業、あるいは社外での活動や学びをどのように評価して自社に活用していけばよいか、悩んでいる人事の方も多いのではないでしょうか?
  • 酒井 章
    厚生労働省が昨年まとめたガイドライン案では、企業が社員の副業・兼業を認める方向で検討するように求めています。今後は、こうした流れに素早く対応して生き残る企業、そうではない企業の格差が出てくるのではないでしょうか。変えていくには、色々な事例を作っていくしかないと思います。副業にこだわる必要はなくて、NPOでも、地域の活動でも、ボランティアでもいい。社会人大学院で学んでもいい。

    あとは企業間の連携ですね。我が社がある汐留では、企業人事が連携してより良い働き方ができる取り組みを始めています。なぜか日本の企業の経営陣は「他社さんはこうしていますよ」という話は聞いてくれたりするんです(笑)。
酒井 章 氏

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