グローバル人事/ナショナルスタッフの育成世界で勝つ、全員で勝つ「強くて良い会社」の条件
― 八木洋介氏に聞く、戦略・ビジョンのグローバルな共有と実行における経営と人事の役割(後編)

  • b! はてぶ

対談

2018.02.20

宮下 洋子 Yoko Miyashita
宮下 洋子サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット マネジャー/シニアコンサルタント

これまで魅力的な製品やサービスによって高い利益を出していた企業が、持続的な成長を実現できない。新興企業に地位を奪われる。事業を手放す。――全世界を市場とした厳しい環境において、勝つ会社、負ける会社の違いはどこにあるのでしょうか。日系・外資系の両方で経営幹部・人事エキスパートを歴任した八木洋介氏にお話を伺います。

八木 洋介氏
八木 洋介氏
株式会社people first代表取締役/サイコム・ブレインズ株式会社顧問

1955年生まれ。1980年に京都大学 経済学部 卒業、1992年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MS取得。1980年に日本鋼管株式会社(現JFEスチール株式会社)入社。1996年から1998年までNational Steel Corporationに出向(CEO補佐)。1999年に GE横河メディカルシステム株式会社入社。2002年から2004年までGE Medical Systems Asia、2005年から2008年までGE Money Asia、2009年から2012年までGE Japanにて責任者として人事などを担当。2002年より日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役。2012年 株式会社住生活グループ(現 株式会社LIXILグループ )執行役副社長 人事・総務担当。2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役(現任)。2017年株式会社ICMG取締役 及び 株式会社 IWNC 代表取締役会長(現任)。経済同友会幹事 新産業革命と規制・法制改革委員会副委員長。著書に「戦略人事のビジョン」。

「ただ強いだけ」じゃない、「強くて良い会社=OneTeam」をつくる

  • 宮下 洋子
    空気感の経営とか、ビジョンや戦略を一方的に伝えるやり方は、当然のことながら世界では通用しない。だとすれば今度は、具体的にどのようにコミュニケーションのあり方を変えていくか、という問題を考える必要があります。
  • 八木 洋介
    日本のやり方が全部悪いわけじゃなくて、欧米や中国・韓国が特別すごいとか、私はそうは思いません。日本だろうがどこだろうが、21世紀は強くて良い会社が勝つ…というか、少なくとも私はそういう会社を勝たせたい。ただ強いだけの会社、表面的な会社に勝たせたくないんです。世界74億人の大多数の人たちは、正しいことが好きで間違ったことは嫌いなんです。だからこそ強くて良い会社をつくっていくべきだと思う。
  • 宮下 洋子
    強くて良い会社をつくる…。それは、八木さんの中でどのようなイメージなのでしょうか?
  • 八木 洋介
    まず「良い会社」とは何か。 それは権限を使って「言うことを聞け、聞かなかったらクビにするぞ」という会社ではない。そうではなくて「なぜこの会社がこの方向に行こうとしているのか」ということを、皆が徹底的に議論して、納得して、共感するようなプロセスを作るべきなんです。トップが「これに共感しない奴は出て行ってくれ」というくらいの強いメッセージを出しながら、「合意してくれたんだよな?」「ハイ、しました!」「じゃあ君たちの役割は、自分たちの部下に伝えることだ。本当に伝わっているかどうか、後で見に行くぜ!」と。
  • 宮下 洋子
    今は日本企業も、現地法人に任せる形でビジョン浸透のワークショップを結構やっています。我々も現地法人から直接依頼を受けてお手伝いをすることがあります。

    一方で、本社の側が本気になって「これはすごく大事なことだから、世界各国のマネージャーに伝えないと。だからこういう施策をします」みたいな話は、数としてはあまり多くない。海外での売上が圧倒的に多くても、「そういうのは一回もやったことがありません」という会社は、決して珍しくありません。
  • 八木 洋介
    ばらばらのチームよりも一個のチーム、One Teamにまとまった方が勝つ。だとすると、「最低限これは大事だ」ということは、皆でやったほうがいいです。だけどそれは単に日本本社からの命令でやるのではなくて。

    私がLIXILでやっていたのは、各事業部門の人事、それは日本人だけでなく、アメリカ人、ドイツ人、イタリア人…みんなを集めて「今回こういうことをやるよ。大事だからみんなやろう!」と。それは「日本本社の日本人」ではなく、「LIXILの人事担当副社長」が日本も他の国も全部平等に見て、「みんなで決めたLIXIL人事のミッション、戦略だから、一致団結して実践するんだ!」ということ。

    その中でたとえば「日本はスローだ。見ろ、イタリアはうまくやってるじゃないか!」って私が言うと、「日本の会社だから日本人を大事にするのかな?」と思っていたところが、「八木さんは我々もフェアに扱ってくれるんだ」となる。そうすると「そうだ、日本はもっとやってよ!」とチームがワッと盛り上がってくる。こういう状態をどう作るかですよ。
  • 宮下 洋子
    なるほど。本社もナショナルスタッフも同じ土俵に立って、もっと良くするために考えたり議論したりできるのが、One Teamとして勝つということなんですね。
  • 八木 洋介
    当然でしょう。GEにいたときの僕はナショナルスタッフだったんだろうけど、本社から「ナショナルスタッフ」なんて呼ばれたら怒ると思う。俺はGEの社員であってナショナルスタッフじゃない。

    だからグローバル化というのであれば、日本のヘッドクオーターとか、日本人とか、そういうのはもう忘れなさい。確かに日本から出た会社は日本的なものをキャリーしてますよ。「我々は日本発の会社で、これだけはグローバルでも譲らない」って。それは大事にすればいい。でも、そういうものを持っている人であれば、日本人じゃなくても、誰であったとしても活躍してもらう。そういうふうにやっていくしかないんじゃない?
  • 宮下 洋子
    確かに。たとえば教育の機会が日本人だけに集中しているケースもありますが、これも歪んだ状態ですよね。
  • 八木 洋介
    日本人という理由だけで何かをしてあげようというのは、もう通用しない。ただ、残念ながら日本人はポテンシャルは持っているのに、訓練ができていない部分がある。そこで私はLIXILで日本人を育てることに多くの時間を割きました。

    それにLIXILの場合、日本の売り上げが65パーセントでした。海外の方が伸びていくだろうけど、半分以上を占めている日本がどうでもいい、なんてことは決してないわけです。同じことが女性にも言えます。バイアスがあってチャンスを与えられていないから、今は下駄を履かせてでもチャンスをあげて訓練する。
  • 宮下 洋子
    それは日本人を特別扱いするのではなくて、全員が同じレベルになって欲しいから。あるいはシェアは大きいけど、それに対して人の部分でギャップがあるから、個別に補強策をするということですね。
  • 八木 洋介
    そうすると何が起こるかっていうと、日本は製造や開発が強いから、その部分をヨーロッパのGROHEやAmericanのStandardとシェアする。GROHEはデザインが強いから、日本人はGROHEのデザインチームからアドバイスをもらう。これがOne Teamですよ。日本人はどうだとか、ドイツ人がどうだっていう変なバイアスがなくなるから、コラボが起こっていくんです。それが経営だと私は思います。