コラム

2022.06.30

AIに代替されないコミュニケーションスキルがある ~今、マネジャーに期待されるファシリテーターとしての役割(前編)

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小西 功二 Koji Konishi
小西 功二 サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター

傾聴の姿勢でつかんだ「素朴な疑問」で参加者の議論を取り回す

「場のデザイン」の次に行うのが「場の活性化」です。場を活性化するためには、傾聴、質問、深掘り、要約、構造化、コーチング&ティーチング、リフレーミング、そしてコンフリクト・マネジメントなど、およそ考えられるあらゆるコミュニケーションスキルを駆使する必要があります。ベースとして論理的思考力も求められる、非常に高度なスキルであり、これがファシリテーターたるマネジャーに求められるスキルです。

では、「場の活性化」のためにマネジャーが駆使したいファシリテーションスキルを、3つのフェーズに分けて解説します。

フェーズ1:問いかけ・引き出し

まずは「問いかけ・引き出し」です。この時に使う具体的な質問は、議論の流れや方向性と、あらかじめ作成したアジェンダに記載した「ゴール」と分解された「論点」を横目で見やりながらチョイスしていく必要があります。当然、具体的な質問をあらかじめ準備することは役に立ちますが、それよりも議論の内容に集中することをお勧めします。議論の内容に集中し、傾聴することで、最も適切な質問が見えてくるからです。

「今、何の話をしているか」「発言者は何を言わんとしているか」を自分の考えや感情などを挟むことなく、正確に理解するためには、相当の集中が必要です。この集中力を養う訓練の1つとして、相手の話を脳内で動画として再現する「ピクチャリング」という手法が役に立ちます。「ピクチャリング」とは、言語を動画に変換し、さらにそれを一枚の絵にまとめるという、グラフィックレコーディングのテクニックです。この「脳内変換」の過程で、文脈を理解し、行間を読み、映像イメージを補うといった作業を同時並行で行うには高い集中力が求められるので、傾聴の姿勢を身に付けるのにも役立ちます。

こうして話の内容や議論の流れを正確に理解できれば、何を問うべきかについては、自ずと見えてきます。話を理解した上で、自然と湧き上がってくる素朴な疑問質問を発言者にぶつけるといいでしょう。あるいは、疑問質問を発言者にそのまま問い返すのではなく、別の参加メンバーに振るのも効果的です。「Aさんの意見を聞いて、こういう疑問が湧いてくるのですが、それについてBさんならどう回答しますか?」という具合です。さらに、「Bさんの今の回答に対して、Cさんはどんな疑問が湧きましたか?」と展開します。こうした質疑応答を取り回しすることで、多様な観点がミックスされ、主張や意見の足腰が強くなったり、多角的に分析や議論ができるようになります。

次のフェーズでは、上述の「問いかけ・引き出し」によって発散してしまった議論の内容を「整理・構造化」して、「まとめ・合意形成」へとつなぎます。コラムの後編では「場の活性化」のために、マネジャーがどのようにファシリテートしていくべきかについて、引き続き解説するとともに、ファシリテーションの人材開発の手段としての可能性についても言及したいと思います。

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