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対談

2023.11.22

不安から始まった育休取得が「次は半年取りたい」に変わるまで 「男性育休」取得当事者へのインタビューから考える、Well-being(後編)

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役

産後の子育てのつらさにも、目の前にある幸せにも気づけた貴重な経験

  • 太田 由紀
    育休取得に向けての期間、職場でどのような準備・引継ぎをおこないましたか?
  • 今西 孝志
    引継ぎが意外と難しく、今までひとりで判断していて暗黙知だったタスクを形式知化して伝えることに時間がかかりました。ある程度の期間をかけることができたのですが、それでも引継ぎの労働量は二割増しになりました。引継ぎ中、「自分から引き継がれてもうまく行くように」と思う反面、「自分が消えるのも寂しい」という思いも、正直ありました。

    NOTE:引継ぎは自分主導で、早めに手をつけ丁寧に…取得者が行うこと②

    誰に何を引き継ぐのか決まったら、余裕を持ったスケジュールで、自分から準備を始めましょう。業務に関連する情報を整理する、マニュアル化するような作業も他者の使いやすさを念頭に行うと、形式知化・可視化に思いのほか時間がかかります。普段から「誰でもわかるように」を意識して仕事を進めることも大事です。また、単に情報や資料を渡すだけでなく、口頭での丁寧なコミュニケーションと共に引継ぎを行うことで、可視化の不充分な点を補うこともできます。

  • 太田 由紀
    ご家庭では、事前にどのような準備をおこないましたか?
  • 今西 孝志
    出産後に向けて、行政の開催するイベントに参加して沐浴の練習をおこなったり、役割分担の話し合いなどもしていました。2交代制にして、この時間帯は妻が起きて、この時間帯は夫にしよう、とか。あとは、コミュニケーションの中身が業務連絡になりがちなので、雑談や一人の時間を意識的に取れるようにしようなど、二人で検討しました。

    ただ、いざ実践になったあとは、正直、事前の準備はあまり役に立ちませんでした。生身の人間相手なので日々体当たりで、計画通りいかない。都度夫婦で相談しながらチューニングしていく毎日でした。
  • 太田 由紀
    なるほど、確かに初めての育児はVUCAと言えるかも。育休中、大変だったことや不安になったことはありましたか?
  • 今西 孝志
    新生児期はまとまった睡眠がとれないため、肉体的にかなりつらかったです。出産直後は妻の体が特に心配なこともあり、家事はほぼ自分が全てこなしていましたし。おむつ替えにも沐浴にも慣れていない状況に加え、子供の気分次第で、予定通りにことが進むことがあまりないのも大変でした。

    また、会話への飢えもありました。夫婦で話すことは報告や連絡が中心で、雑談がほぼ無い。雑談するくらいなら仮眠を取るか家事を進めたくなる。閉じた世界にいるので、第三者の大人と話したい欲求も日々強くなっていった記憶があります。

    育休開始直後は、業務のことも気がかりでした。「引継ぎは大丈夫だったか、トラブルが起こって自分に連絡がくるのではないか」など。実際には何もありませんでしたが。再度不安になったのは復帰直前です。自分のポストは休業前に聞いていたとおりだろうか、しばらく働いてないけどパフォーマンスを発揮できるだろうか、妻の負担や自分の体力は大丈夫だろうか、といったことが頭をよぎりました。
  • 太田 由紀
    育休を取得したことで、人生において得たことと、一時的にせよ失ったことは何だと思いますか。
  • 今西 孝志
    得たことは、「子どもを育てる大変さと楽しさを体感できた経験」ですね。ただ3人で散歩をするだけで満たされる、子どもの成長を夫婦で話すだけで満たされる、といった目の前にある幸せに気づけたことも貴重です。

    失ったことは、短期的に見ると仕事経験かもしれません。ただ、スティーブ・ジョブズのコネクティング・ドットの話のように、育休を取った経験は、いつかピースの一つとして点が線や面につながり、仕事にも活きる瞬間が来ると思っています。

    これまで多くの女性が体験してきたであろう大変さに、少しだけ近づけた気もしていて。仕事上、面白い武器を持てたと自分では思っています。
  • 太田 由紀
    もう一度育休をとるとしたら、期間や準備などで今回と変えたいことはありますか?
  • 今西 孝志
    次に育休をとる場合は半年間を選択すると思います。今回の3か月半ほどの期間は、ようやく慣れてきた頃に終わったという印象なので。もう少し楽しさを味わいたかった。次の変化、例えば離乳食が始まる時期も育休中に体感したいと思っています。

    NOTE:育休経験を「Well-being」の観点で捉える

    前述したとおりWell-beingとは、身体的・精神的・社会的のいずれもが良好であり、生きがいや働きがいを感じられている状態のことを指します。今回の育休経験をWell-beingの観点から整理してみると、次のとおり実現例になると言えそうです。

    <身体面>親がまとまった睡眠時間を確保しにくい新生児期を、夫婦で育児に専念することで、負担がどちらかに偏ることなく乗り切ることができた。

    <精神面>子どもを夫婦で一緒に育てることの幸せを実感できた。

    <社会面>短期的には仕事経験を失ったかもしれないが、育休で得た経験は仕事にも活きる瞬間が来ると思える。

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