2022年7月11日開催レポート

早稲田大学ビジネススクール「男性の育休取得にまつわるアンコンシャス・バイアスと企業の取組み」

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2022.09.22

去る2022年7月11日、早稲田大学 大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)で長内厚教授が講師を務める「企業人のためのダイバーシティ・マネジメント」に、一昨年、一昨年に引き続き、サイコム・ブレインズ取締役専務執行役員/太田由紀がゲスト講師として登壇しました。当日は「男性の育休取得にまつわるアンコンシャス・バイアスと企業の取組み」をテーマに、レクチャーとディスカッションを通じて理解を深めました。

DE&Iのトピックとしての「男性育休の取得推進」

授業の冒頭、太田は「男性育休の取得推進」は、DE&Iの様々な要素(女性のエンパワーメント、ワーク・イン・ライフ、心理的安全性、働き方改革、ハラスメント、生産性向上)に関わるテーマである、と話しました。

日本における育児休業の取得率は、2020年時点で女性は81.6%、男性は12.65%と大きな開きがある上に、男性取得者の28.3%が日数5日未満という非常に短い取得期間に留まっています。この背景には「多くの企業において、男性社員が長期間の育児休業を取得しづらい」という状況があり、2022年度から段階的に制度を改定していくことで、国全体で男性育休の取得を推進していこうという動きにあることを改めて紹介しました。

「この人が抜けると会社が大変だ」…は本当にそうなのか?部下が育休取得を申し出た時に、意識したいこと

次に、当社の研修でも実施しているケーススタディを皆さんに体験していただきました。「プロジェクトリーダーを務める男性社員Aさんが、半年後、ちょうどプロジェクトの佳境と重なる期間に、1か月間の育休を取得したいと申し出た」というケースを読んでいただき、Aさんと共に働く管理職の立場に立ち、グループディスカッションを行うというものです。

あるグループからは「背中を押してあげたい」「休業まで半年あれば、十分引継ぎが可能ではないか」という前向きな意見が上がりました。また、別のグループからは「応援したいが、プロジェクトのキーパーソンが抜けてしまうと、会社としては正直大変だと感じてしまう」という意見も挙がりました。この意見に対し、太田が「もし、Aさんが女性だったらどう感じますか」と問いかけたところ、発言者の方は少し迷われた後、「女性だと、自然と受け入れるなと考えた。これもアンコンシャス・バイアスなのかもしれない」と回答されました。

実際に、「育休は母親が取るもの」といった、アンコンシャス・バイアス(無意識下での思い込み)から、男性社員が育休を申請した時に「え?どれくらい取るの?」という反応をとる人は少なくありません。また、「育休を取る男性=キャリアを諦めている」と認識されてしまうケースも多く存在します。このような、職場の上司や同僚からの反応・評価への恐れが、男性社員の育休取得を阻んでいます。

2019年「男性の育休取得に関する『無意識の偏見』調査」より。企業で働く多くの人々が、
男性育休が普及しない理由として「男性が育休を取りにくい雰囲気」の存在を上げている。

上司の意識改革だけでは、抜本的な解決は難しい

また、太田は、男性部下から育休取得の申し出があった場合、上司としてどう感じるかについて、とある企業様の管理職向け研修で受講者から上がった声を紹介しました。

さきほどのディスカッション同様に、この時も、「正直なところ困った」「取らせてあげたいけど、戦力がいなくなるのはつらい」といった、休業による現場への影響を懸念する意見が複数の受講者から出ていました。

これらの意見に触れながら、太田は、「上司が部下の育休取得に賛成したとしても、実際に育休を取得しようとすると、組織として体制・態勢が整っていないことも多い。整備していくことが大きな課題である」と述べました。その上で、「育休取得者が出ると大変だ、で議論を終わらせるのではなく、コア人材が一時的に離脱しても職場が回る仕組みを考え、組織を変えていかなければならない」と解説しました。

3か月でキャリアに支障?…調査データから見えてくる「男性が育休を取りづらい雰囲気」

次に、太田は、サイコム・ブレインズが2019年に実施した「男性の育休取得に関する『無意識の偏見』調査」の結果から、「育休取得によるキャリアへの影響」に関する、世の中の認識について紹介しました。

育休取得者が女性である場合、「マイナスの影響はない」と回答する人が、一般社員・管理職をふくむ全職位で最も多い一方で、取得者が男性の場合、課長レベル以上の管理職、経営者層が「3か月からマイナスの影響がでる」と最も多く回答し、比較的短期間でキャリアへの影響が出ると認識していることが読み取れます。

理由としては、代役の立てにくさ、復帰後のキャッチアップの難しさなどが上げられましたが、本来、これらの事象は性別に関係なく存在するはずです。もし、男性に対してのみ問題視されてしまうとすれば、そこにはアンコンシャス・バイアスがあるかもしれません。また、そもそも、職場のコア人材である男性の育休取得について、「3か月からマイナスの影響がでる」という認識自体がアンコンシャス・バイアスである、という可能性もあります。太田は、育休を取る男性に対するアンコンシャス・バイアスの存在について85%の回答者が認識している、というデータに言及しながら、その解消のためには、まずは1か月間でもよいので男性社員に育休を取得させ、職場内の意識・認識を崩していくことが大切だと述べました。

「アンコンシャス・バイアスの緩和」と「仕組みづくり」の両輪で、男性育休取得を推進する

授業の最後、太田は、男性育休の取得を推進していくために管理職が取り組むべき内容として、下記の3つをお伝えしました。

  • コミュニケーション強化:部下が本音を話し建設的な合意ができる会話を意識する
  • 業務効率化:チームの生産性向上のために、業務の内容・分担等を見直し、人を育成する
  • 心理的安全性の確保:個々の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を緩和し、互いを理解し合う

特に、3つ目の「心理的安全性の確保」については、「育休を取得する男性は昇進意欲が低いにちがいない」「時短勤務者に大きな仕事は任せられない」といった決めつけ、思い込みは、誰しも無意識下でおこなってしまうものであり、ゆえに、ひとり一人の意識づけが、職場の雰囲気に大きな変化をもたらします。太田は、上述のような思い込みに対し、意識的に「本当にそうか?」「例外はないか?」と考え、相手の話に耳を傾けることや、管理職として周囲に問いかける役割を担う、などの対応方法を提案しました。さらに、これらの職場の意識改革に加えて、簡単ではないものの、組織全体の体制・態勢を整えていくことが必須であると強調しました。

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